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業績向上人事(4) 人事の誤解と対策(4) 管理者の評価訓練(2)

 で、いまさらそれを言ってもとりあえず始まらないので元に戻ると、管理者は部下に何を指導教育するのか。現状の業務の中で、部下の今の段階で出来ていないことを指導教育する。ということは管理者はその部下が、何が出来て、何が出来ていないかを把握できている必要があるということ。まずこの客観的現状把握、まずはこれが「評価」である。では管理者のその客観的現状把握、部下当人として自分の現状把握と一致しているのかどうか。一致していれば「納得できる評価」になる。一致していなければ「納得いかない評価」となる。「納得できる評価」と「泣き寝入り」は違う。評価に反論することをあきらめている、言えない、もしくは言ってもたぶんわかってもらえないから納得したふりをするか、部下自身が自分で納得するしかないと言い聞かせている状態とは、もちろん大きく違う。これらはすべて「納得いかない評価」である。評価の多くに対して、実態としてはほぼ「納得いかない評価」だろう。立場の二律背反するもの同士の評価なのだから一致しないほうが自然である。

 論点はここからで、まずは「じゃあ何が一致していないのか」を評価者側、管理者が真摯に部下と向き合い、追求、探求しようと言う姿勢があるだろうか。追求、探求と言っても、部下の深い心理の部分なのだから、上から目線でアプローチしても余計にバリアが厚くなるばかりだろう。「部下は本当のところ、一体何がわかっていないのだろう」、部下自身も認識していない、感情の部分、知識の部分、概念の部分を探り当てられるかどうかである。

 部下自身がわかっていないことを指摘したり、教えてあげたりしても徒労に終わり、納得には至らないのではないか、と思うかもしれないが、それはそうではない。その内容が的を得て、核心をついていれば、人は必ず納得する。むしろ、自分ですらよくわかっていないことをこの人はよくわかるなあと、感心する。上司と部下の関係性であれば、これで一気に信頼をされ、尊敬すら受けるようになる。「この人はわかってくれている」と。「評価制度」の肝は、実際、今のくだりが本丸の話。このことさえ押さえられていれば、厳しい指導も、低い賃金も直接の引き金になるわけではないということ。こんな管理者を何人作れるか、これが経営者としての「ケイパビリティ」上、最大の課題である。

 その優秀な管理者が一人で一手に評価をするという体制なら世話はない。組織の大きさをそれぐらいの規模で勝負をかけていくほうが戦略上は戦いやすく有利だろう。組織改変から思い切ってやれるならいいが、通常、そんなわけにはいかない。

 揶揄的な言い方になるが、そもそも、ほぼすべての出来上がっている組織(会社)の状態自体が、「ボタンの掛け違いの中での目の前への適合」なわけだから色々無理がある。人事制度解決表面的な具体施策の模索の前に、経営者としてはこの様々なボタンの掛け違い状態の客観認識から必要ではないだろう。「さっきから何をわかったようなことを言ってくれてんだ。少なくともうちは違う。」と感じる社長がいれば、社長自身の自己認識とずいぶん違う「評価」を前提にこのテキストが書かれていることになる。従業員はその何倍もそう思っている。

 話を戻すと、通常複数部署があり、複数の評価管理者がいることになる。そうなると、最終的に賃金という統一基準に並べなければならないわけで、そこで評価者、管理者単位で評価基準の隔たりが出てしまわないか、というのが次の壁だ。それが出るので、部署同士、社員同士がギクシャクしてしまう。

 この問題に対する対策の一つの方法として「評価会議」「評価者委員会」なる会合を設けて、経営者とその評価管理者が寄ってすりあわせをする。部下との評価面談の前に一度集まりを持ち、評価基準を確認しあい、全員の面談終了後に再度、そのメンバーが集まり、それぞれの部下の評価を発表しあうというものだ。A管理者の全般の評価に対して、B管理者が大きく乖離を感じたら、その差異は何によって生じたのかを、その解釈の違いを確認しあう。他の管理者はどうなのか。微妙に一致の難しい項目が顕在化すれば、最後は経営者の経営判断で以って、判例ではないがその後の新たな評価基準として、きっちり明文化しておき、次回以降のスタンダードとして評価者メンバー全員が認識しておく。これを評価が半期ごとの会社は半期ごとに、一年ごとの会社は一年ごとに、その都度毎回行なう。これを数年重ねていけば、評価基準の内容がより統一され、管理者単位での認識も上がり、評価自体のプロフェッショナル化していくということである。

 従業員に対して、その会合内容は非公表だが、そんなことをやっているということはそれとなく漏れ伝え、認識させる。そうすると、そこまでやって決まっているのであれば相当正確な評価をしてくれていると思うし、この会社しっかりしていると思うし、少なくとも好き嫌いや社内政治のしょうもないことで評価や報酬が決まっているのではないとは思わせることが出来る。

 なかなかその都度幹部が集まってそんな大がかりな会合はもてない、ということにはなりそうだが、でも本当に一番大事なことは何だろうか。事柄の優先順位を経営者はどう決めているのだろうか。ひょっとして経営理念や募集要項などに、「社員を大切にする会社」とか「従業員満足度を主要指標の一つに設定している」とか「やりがいのある職場環境づくり」とか「終身雇用」・・・・・などなどうたっていないのだろうか。そもそもに矛盾があることを従業員たちは知っている。企業存続上の観点から、にちにち業務が回っていて、給料もまあまあ渡してればそれで良しかといえば、そうではないはずだ。長期に勝つ強い組織への努力である。          

(「成果主義人事制度をつくる」、「ストーリーとしての競争戦略」、「経営戦略全史」引用、参照)

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