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事業承継スキーム(7) 持株会社(2) ~含み益控除

そもそものテーマであった「持株会社」スキームに先回からやっと入れました。まずは比較的易しめな論点である「含み益控除」から見ていきたいと思います。実務上の正しい理解は、組織再編税制の理解を順を追ってゆく必要がありますが、そこから入るとまた相当な大回りをすることになる為、論点をピンポイントで絞りながら、最終的に包括的な視点にたどり着きたいと思います。

ここまでの論の進め方として、あくまでも「事業承継」のトピックスとして見てきました。ベンチャーや中小法人のオーナーが苦心惨憺の末、高収益事業の完成にたどり着いたのに、それまでまったく無関心だったがゆえに結局、築き上げた資産のそのほとんどが税金として収用されていくのはあまりに切ない話です。事業活動の最終形として、築き上げた資産をどのように売るのか、どのように継ぐのか、どのように相続するのか。が、そもそもの論点です。

どのように売るのか、なら他人(他社)に高く売りたい。M&A市場で売れる商品ならぬ、売れる会社にできれば一番理想でしょう。しかし実際は通常、直系尊属がいるでしょうから、どのように継ぐか、どのように相続するかがポイントで、所有する株の評価をいかに抑えるかがテーマとなります。相続時か生前に贈与か、他に相続時精算課税、経営承継円滑化法か何れかを選択することになるでしょうが、いずれにしても相続税対策として、相続税評価額を下げることを目的とします。

その株の評価を抑える一方法として、会社を二重にする、と言うのが「持株会社」です。高収益な事業をつくり上げた元々の会社をAとして、オーナーが持っているそのA社の株式を全部(もしくは過半数)、別に作ったもう一つのB社に資本出資として移転し、その対価としてB社の株式をオーナーは新たに持つ、という構図です。

そうするとなぜ評価が下げられるのかと言うと、オーナーが最終的に所有するB社株の評価に、今回のテーマ「含み益控除」が適用できるということです。オーナーがA社株をB社に移転した時点では、A社株の対価としてのB社株ですから評価額は同じです。その後数年経ち、A社はさらに収益を上げ資産価値が増大すると、B社の保有するA社株の価値、評価額は当然上がります。この増加したA社株の評価額はB社の資産の中では、取得した時点の簿価に比して現段階では実際には上がっており、この上がっている分を「含み益」と言います。B社株を評価する際に、このA社株の値上がり分を反映させなければなりませんが、A社株の含み益から42%分を控除、つまり引き算していいとされている、ということです。

もともとA社株は100だったとして、B社に移転したので、B社株も100です。後にA社株は500になり、直接A社株を保有していれば500です。ところがB社をかませていれば、B社も500に上がりますが、A社株の値上がり分400のうちの42%168500から引いていいことになり、結局B社株は332の評価になる、ということです。

これが適用されるのは、B社株を「純資(純資産価額)」で評価する際の話です。「純資」か「類似」か併用かは、会社規模などで違ってくるという話でした。この場合B社の資産はA社の株のみという、「純粋持ち株会社」という状態で、「株特(株式保有特定会社)」に該当し、「純資」評価になる、ということです。

以前見たように、一般的に「純資」評価額よりも「類似」評価額のほうが低くなるのであれば、B社もA社の株のみという資産構成を変更し、「小会社」なり「中会社」なりに該当させれば、B社の評価そのものを「類似」併用にも出来る。A社株がそもそも「類似」併用評価できれば、「類似」併用の連続適用ということも可能ということです。A社株の直接保有よりはB社をかませた間接保有のほうが評価額は低く出来、さらにB社評価を「純資」にし、「含み益控除」を適用するのか、「類似」併用の連続適用の場合と検討しながら、B社資産構成をどうするのか、B社自体をどう活用するのか、計画を立てていくことになります。

気をつけなければいけない話として、銀行の提案でこの持株会社設立プランが出てきます。この場合は、まず後継者に新しい会社を設立させ、後継者が資本金を出資し新会社の株主です。この新会社に先代オーナーが株を持つ元の会社の株式を「売る」という方式です。新会社はオーナーの株を買い取る資金はありませんから、その資金を銀行が新会社に貸し付けるというスキームです。

何が違うかと言うと、この場合は新会社がオーナーの株を買い取っており、その新会社の株主は後継者ですから、株の引継ぎは済んでいることになり、相続時の心配はなくなり、引継ぎ完了です。めでたし、ではありません。

先の例でA社株をB社に「株式移転」した際は、「適格要件」を満たしていれば、課税関係は発生しません。※

ところがこの銀行の提案は、オーナーが新会社に売った、つまり法人への「譲渡」になり、まずオーナーに譲渡益課税が発生します。引き下げ効果の伴っていない、その時点での時価評価額(相続税評価額の規定とは限らず)から創業時の資本金を引いた分に、20%分離課税がかかります。相続税や贈与税よりは低くなる場合、提案されるケースです。

そして後継者は銀行から借入しており、この新会社は返済していかなければなりません。新会社は持株会社機能だけでなく、収益を上げる必要があります。借入金は株の買取金額としてオーナーの手元に一旦入りますが、譲渡税納税分を引いた額を、今度はオーナーから新会社に貸付け、新会社はその分をとりあえず銀行に返します。残りの分、すなわち譲渡税納税分を引いた金額に金利をつけて返済してゆきます。後継者の成長見込みは原則、評価しませんから、返済条件は厳しく、株や自宅資産などの担保もしくはオーナーの連帯保証などを求められるケースが多くなります。

結局、ダブルで結構なキャッシュアウトをすることになり、かつ今後数年にわたって資金繰りの手間が続くことになります。そして、オーナーが長年掛けて築き上げた収益事業のその株式という資産が、自らの手元にキャッシュ還元されること無く、新会社への貸付金となってしまいます。この新会社がその貸付金をオーナーに返済出来る方策が必要です。そもそも株を買い取る為だけの目的で設立し、返済能力が難しいと、オーナーの長年のご努力が水の泡とは言いすぎでしょうが、虚しい話です。

シミュレーションしてみなければわかりませんし、状況如何の部分はあるでしょうが、相続税や贈与税が多額すぎ、事業継続もままならない、さしせまった状況でもない限り、あまり賢明な方法とは思えません。こういう状況になる前に、前倒しで対策への問題意識を持つことが鍵だと思われます。起業前からわかっておくぐらいの勢いで。

AB社の例で、「適格要件」に該当すれば課税関係をこの時点では回避できるのはどういうことか、次回見ていきたいと思います。

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