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事業承継スキーム(8) 持株会社(3) ~適格要件

先回から「持株会社」スキームに入り、「含み益控除」を見ました。今回は「適格要件」について見ていきたいと思います。先回のAB社の例で、「適格要件」に該当すれば、株式の移転をした時点では課税関係を回避できるとありましたが、それはどういうことかを見ていきたいと思います。

まずは、用語の整理からしていきますと、今回のテーマ「適格要件」。「適格」という表現があるということは適格でない状態があるということで、「適格」と「非適格」という用語があります。「適格」に該当すると課税関係が回避できるなら「非適格」ならそうじゃない。「適格」に該当するためには「要件」がある、ということです。「要件」については後ほど。

話の流れからすると、あえて触れる必要もない気もしますが、ここまでの前提として、別の会社を作って、その会社に株式を「移転」させる方法での持株会社化でした。もうすでに別会社として複数の会社を持っている場合だと、表現が変わります。

収益が低く、株価が低いほうの会社に、業績が良く株価の上昇が見込まれそうな方の会社の株を取得させる場合は、株式の「交換」となります。収益も株価も低いほうの会社を持株会社とし、オーナーはその会社の株を持つということです。

「移転」と「交換」は別ですが、「適格」に該当すれば手続き上や会計処理、税務等はほぼ準じる内容で、セットで語られています。このトピックスでの説明の流れでは「移転」の前提で続けてゆきます。

さらに用語として、親子会社でも、株式自体はそれぞれ別であれば「親会社」「子会社」ですが、「移転」や「交換」のように子会社の株がすべて親会社の株に置き換わり、完全一致する場合は「完全親会社」「完全子会社」と表現されています。

「移転」は、「完全子会社」になるオーナーの株式を、「完全親会社」へ移転して、「完全親法人」の株式を取得することになりますので、株式の譲渡となり、本来なら課税問題が生じます。そこで、この「移転」が「適格要件」に該当すれば、オーナーに対する「譲渡益課税が繰り延べ」られる、ということになります。

ということでやっと、「適格」に該当する為の「要件」ですが、

完全子法人の株主に完全親法人の株式以外の資産が交付されないこと

完全子法人と完全親法人との間に100%の持分関係があり、同一者の100%関係が継続されていること、単独株式移転で完全親子関係が継続されていること

完全子法人と完全親法人との間に50%超の持分関係があり、完全親法人を同一とする当事者間および同一者間で50%超の関係が継続されており、かつ、従業者の80%以上が継続従事し、主要な事業が継続されていること

適格条件を欠いた非適格の株式移転においては、完全子法人の資産等を移動しないにもかかわらず、「時価評価」して評価損益が計上され、課税される  ことになります。

は、オーナーが子会社の株を親会社に移転して、親会社から受け取るものは親会社の株式のみです。

は、親会社と子会社の関係の維持が必要。

は、親会社と子会社の株の持分関係が100%でなく、50%超の場合、関係の維持と、従業員の雇用を80%以上維持が必要。

これらの要件が崩れた時点で、子会社の資産を「時価」で「評価替え」しなければならず、評価益があれば、益金算入する、ということです。

「時価」に対して「簿価」と言う表現があります。表現自体はあらゆる場面でよく見ますが、この「時価」の概念が、大変難しいとされています。このトピックスでは手に負えませんので、必要以上に触れることは避けたいと思います。

意味としては「時価」はその時点での実勢価格、実際に取引、売買されうる価格ということですが、それに対する明確な規定が、法律の世界に無いようです。「簿価」は帳簿価格、その時点で貸借対照表に記載されている価格です。

会社が所有する資産には、不動産や設備等の固定資産、株・債券などの有価証券や保険積立金等の金融商品、さまざまな物があります。その資産を取得した時点では、その時に実際に払った価格を「取得原価」として記載します。その後、各資産によって、減価償却の対象となって、毎期一定のルールに基き価値を減少させるもの、あるいは毎期ごとに価値の変動を帳簿上に反映させ、課税関係を終了するものがあります。

かたや、その資産に何がしかの異動が発生しない限り、価値の変動が確定できないものもあります。すると、それらの資産は経年と共にその時点での価値「時価」は、取得した時点で記載されたままの「簿価」と乖離しています。この乖離、価値の差がいわゆる、「含み益」「含み損」です。この乖離はその時点での貸借対照表には反映されていません。それを反映させることが「時価評価替え」です。そうすることにより、評価益もしくは評価損が発生することになります。評価益があれば益金算入し、評価損があれば、損金算入します。

今回の持株会社化スキームの中でも、「適格要件」に該当すれば、「簿価」譲渡ということになり、「完全親会社」にもその数字がそのまま反映されることになります。ですのでオーナーの株の譲渡にも譲渡益も譲渡損も発生せず、課税関係は生じないということです。逆に返せば、簿価で固定させることによって、評価損での節税も出来ません。

持株会社化の効果例

現在  株価10,000円、株数10万株

10年後  株価40,000円、株数10万株

 持株会社なし  40,000×10万株=40億円

 持株会社化  40,000円-(40,000円-10,000)×40%×10万株=28億円  12億円の評価減


このように、将来の株価の値上がりを少しでも低く抑えておきたい場合の株価対策として、有効な手法になります。もちろん、途中の時期において後継者が決定される場合、各種の対策を講じ、株式を後継者等に生前贈与する等の対策をすることは当然のこととなります。生前贈与の有効な方法についても、いずれ触れていきたいと思います。スキームシリーズとして今後、「一般社団法人」「信託」、「不動産賃貸」等、見ていく予定です。

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