事業承継スキーム(11) 「一般社団法人」「信託」(3) ~信託とは
今回は、「信託」について見ていきたいと思います。信託とは字の如く「信じて託する」ことで、財産を他者に託して管理、運用などをしてもらい、そこから生じる利益を自分、もしくは誰かが享受できるようにする制度のことを言います。財産の持ち主を「委託者」、財産を託される人を「受託者」、その利益を受ける人を「受益者」と言い、3つの立ち位置があることになります。
賃貸不動産オーナーが高齢で管理が出来なくなり、管理会社に委託し、その賃料をオーナー自身の生活費や、オーナーの死後も遺族の生活費に当てられるように約束事をきめておくとか、まとまったお金のある人が資産運用がよくわからないので、金融機関などに託して運用してもらい、その利益を受けるようにしておくとかいうケースなどです。後者のケースがいわゆる「投資信託」です。
なぜわざわざそんな複雑な枠組みにするのか、そのメリット、そうしなかった場合のデメリットだけ簡潔に説明できればいいのですが、その説明をするための前提になる知識の説明と理解が必要になります。
まずは信託の3つの立ち位置にだれがなるのか、パターンがあります。財産の持ち主「委託者」に対して、その持ち主自らが「受益者」になるのを「自益信託」といい、他の誰かを受益者にするのを「他益信託」と言います。「受託者」に、持ち主自らなるのを「自己信託」と言います。
実施手続き上にも複数の方法があり、受託者を信頼できる第三者(信託銀行、弁護士、資産管理会社など)に依頼し、管理・運用してもらう内容や第三者への信託報酬などの取り決めをする、「契約」による方法。最初は受益者を自分にする自益信託に設定しておき、自分の死後の取り決めを指示する遺言を活用する、「遺言代用」による方法。自分が受託者も兼ねる自己信託の場合、自分で勝手にやっても対外に示せないので、公正証書を活用する、「信託宣言」による方法など。
受託者を第三者に託す場合などは、していることの意味合いがわからなくも無いですが、自分で受託者になるというのは、???となります。信頼のおける第三者が見つからないとか、内容によっては報酬を払って依頼するまでも無い、もしくは逆に引き受けてもらえないなどの場合です。ケースによってはそれでも信託を利用するメリットがあるということです。
信託は相続全般もしくは資産運用・譲渡で活用されるまさしくケースバイケースですが、すべてのケースを見ていく主旨ではないので、そもそものテーマが、事業承継で息子に自社株を引き継ぐというケースに絞っています。この「一般社団法人」「信託」編のトピックスにおいては、要は最終的に「非上場株式の株主オーナー社長が息子へ資産と経営権(議決権)を引き継ぐ為に、自社株の資産管理会社として一般社団法人を立ち上げ、その一般社団法人を受託者として自社株を信託し、最初はオーナー自身を受益者とする自益信託とするが、死後は息子が受益者となる他益信託となるよう指示した遺言代用信託を活用すると、自社株承継上のどんなデメリットを回避でき、どんなメリットがあるのか」を見ていきたい、ということです。そこにたどり着く為にはまだまだ道のりがあります。
まずは名義変更や登記についてですが、手続き上、その資産は受託者の所有資産として所有権移転の登記を必要とします。受託者名義の資産になるのですが、しかし受益権の取り決めなどがあるので、受託者固有の資産ではないことを示す必要もあるため、その目的が信託であることを示す、信託登記も併せて行ないます。
色々と信託の制度、概要を述べていますが、やはり核心は課税の問題です。通常、資産が移転される、すなわち名義変更される、所有者が変わる際、それに伴い課税関係が生じるのが前提です。しかしこの信託制度の場合、手続き上受託者に資産移転されますが、受託者はその資産の運用管理を代行する手数料的な信託報酬を受けるのみで、その資産から派生するあらゆる利益を受けることは出来ず、その受益権はすべて受益者のものである旨が信託法に定められています。したがって「実質的な所有者は受益者」になる、というのがこの信託制度の特徴であり、活用される点にもなるということです。
ですので、まず委託者と受託者が違う場合でもこの間に課税関係は生じません。受益者を他益信託にした場合、委託者と受益者の間に贈与税が発生します。受益者を自己に設定する自益信託なら、自分の財産利益を自分で受けるので、その時点での贈与税などは生じません。自分の死後、息子を受益者に取り決めておくと、その相続の発生した時点で息子に相続税が発生します。委託者と受益者の間に受託者が一枚かむけれど、贈与税や相続税は基本同じです。
となると、別に信託制度を導入しなくても同じではないかと思えます。結局やはり、贈与税なり相続税の課税関係から免れるというわけではありません。すると何ゆえの信託か?ということになりますが、このトピックスでの基本的な論調としては税制面、多額のキャッシュアウトの側面を中心に論じており、最大のネックとしてきました。
ここで改めて、相続・事業承継の問題点として、納税や株買取などの「資金」の問題と併せて考慮が必要な点として、「遺留分」と「議決権」の問題があります。今回のスキームは資金面以上に、このあたりの点に対しての確実性と柔軟性が高いということで注目されています。「遺留分」と「議決権」について、今までも多少触れては来ましたが、次回もう一度見ておきたいと思います。