事業承継スキーム(20) 生前贈与(2) ~キース会における「出口構想の理想形」
キース会における「出口構想の理想形」
今回は前回の続き、「名義預金」から。孫名義の預金口座をつくり、そこに振り込みをして、贈与として資金移転をしたけれど、孫が幼少のためその預金通帳と銀行印を贈与者自身で保管しているようなケースです。預金口座の名義だけが孫であって、実質的な財産の管理者は贈与者自身だとみなされるということです。
贈与者の死後まで保管していたケースだと、判例では贈与は否認され、贈与者自身の相続財産として、相続税の課税をされています。ということから、預金通帳と印鑑は受贈者である名義人自身が保管しなければならないと言われるゆえんです。
現金贈与の場合、二次相続、三次相続回避のために、祖父から孫へ教育資金などの名目で、隔世で贈与をされることも多く、上記のようなケースがみられます。この場合やはり孫は、幼少期から学生、いずれにしても未成年である場合が多く、預金通帳や印鑑を保管するには無理が伴います。孫の机に通帳や印鑑を入れてあるといっても、「なくさないように」、「勝手にお金を使わないように」という親からの指図は必ず伴うでしょう。ということであれば実質的な管理者は孫の親であり、実質的には孫の親への贈与とみなされかねないということになります。であれば、なぜ名義は孫なのかという、租税回避目的としての、いらぬ心象も招きかねません。
孫への贈与は15才以上にすべきという、過去の時代の識者の見解なども、15歳以上なら義務教育も修了しているとしての一つの年齢目安ですが、中学生はだめで、高校生は大丈夫というのは否認回避の根拠とは言えません。相続時精算課税制度の対象が20才以上だということを考えると、未成年への現金贈与という方法は熟慮が必要かと思われます。
連年贈与にしても名義預金にしても、その後の資金を保全しようとという意図が、贈与者自身に強く大前提にある点、そして保全方法の使途が金融機関目線でのアドバイス、誘導である点などで、そもそも原則論にそぐわず、「何が大丈夫なのか」という、その根本出発点の発想自体が租税回避を前提としており、技巧にすぎるがゆえに、各種否認要因を心配しなければならなくなる、というの
が構図のようです。
民法での贈与の原則概念としては「受贈した財産は受贈者自身が自由に消費、運用、利用、転貸、売却できる」とあります。ということは、贈与者が資金保全を意図しているという時点で、名義預金という方法自体が矛盾があるということになります。贈与税うんぬんの税法ステージを議論する以前に、民法としての「贈与」自体が成立していない、というのがこの各種否認要因の根本的な
話です。
ということで言えば、贈与者にその都度、明確な資金使途があり、その資金使途を明確にした上で、受贈者に贈与し、受贈者が、贈与者と同じ使途であっても、自由意思により、受贈した都度、消費、運用、利用、転貸、売却していれば、連年で同金額を贈与していても、それは「一括した権利」を贈与したとは言えない、となります。
とすると、贈与者である祖父が、息子に住宅ローン代を毎月10万円、息子の配偶者に食費などの生活費を10万円、そして孫たちには携帯電話代、通学交通費等、一人あたり毎月5万円をそれぞれ贈与する。これを孫が中学から大学まで10年間続けたとすると、どうなるか。
この論点を考えるうえで、そもそも忘れてならないのは、親から扶養義務のある子へ、生活扶養上、必要欠くべからざる資金援助は扶養義務であり、贈与には当たらない、というやつです。普通の子育て、家族の扶養のことです。必要欠くべからざら無い贅沢資金援助とは違います。
親から子への資金援助は扶養義務だから贈与に当たらない、となるかと言えば、この場合はもちろん違います。通常息子世帯が、祖父の扶養に入っていることはないので、これは通常の贈与です。
息子には年間120万円、嫁にも年間120万円、孫が二人だとすると、一人年間60万ずつで年間合計360万円の贈与になる。それぞれ基礎控除の110万円を引いて、息子夫婦は10万円の10%で1万円の贈与税をそれぞれ申告納税し、孫たちは基礎控除内で非課税、となります。ですから実質358万の資金移転が成立し、これを10年間ですから、3580万円の資金移転ができるということです。
祖父は資金使途を明確にし、息子世帯も自由意思により、毎月その都度、上記の使途に供し、毎年申告納税も完了している以上、3600万円の「一括した権利」の贈与とは言えません。
毎年一定額で上記の実行をしても、この場合なら受贈者の自由意思にて財産の処分を実行しており、贈与の本質を満たしている、となるということです。さらに言えば、住宅ローンの返済額は毎月変動するわけですし、食費や携帯電話代も変動します。その変動に応じて、贈与額を対応させれば、毎月、もしくは毎年違う金額に当然なります。年間で基礎控除以内の年があれば、納税申告も必要はありません。
であれば、ごく自然な形で本来の贈与の本質を満たしていくことになり、この贈与において贈与契約書なるものは必要ないでしょうし、意図的に毎年金額を変えるとかの意識は不要でしょうし、、孫たちの通帳や印鑑を親世代が管理していても、実質的にそこから携帯電話代や交通費が落ちていれば、名義預金うんぬんではなく生活口座です。
ただ資金使途の流れは一致させておく必要があります。祖父から息子へ振り込んだその通帳から住宅ローンが落ちるように、嫁へ振り込んだ嫁名義の通帳から、食費などの現金を引き出して使用する、もしくはクレカ払いにして、そこからカード代金が落ちる、孫たちのも同様に。
かなり長々と相続事業承継のスキーム解説を続けてまいりました。かなり高度で難解なものも一応見てきましたが、究極の理想形は今回見たような、この贈与の本質をきちんと満たした形での、現金の連年生前贈与です。
事業成功した暁にもやはり原則は、現金資産の確保を意識したいものです。法人化をすればどうしても株式資産の問題と向き合うことにはなりますが、ご子息への承継をする場合でも、生前譲渡出来れば越したことはないわけで、その場合もやはり買取の為の現金が必要です。そこを意識した、現金生前贈与の計画を念頭に置きたいものです。
ご子息世帯の生活資金使途として現金贈与していけば、ご子息自身の役員報酬分は株の買取資金として、ご子息自身の個人資産にストックしておけるという理屈です。
これがキース会における、「出口構想の理想形」です。