オーナー経営者VS税制改正(3) 改正内容 03 ~25年度改正内容を改めて
4 、公社債のデフォルトによる損失
甲:次に公社債のデフォルト損失,例えば解散し清算した場合や,更生計画認可決定,再生計画認可決定などの場合で価値がなくなったときの取扱いについてはどうなったかということを確認したいと思います。今回デフオルト損失についてかなり画期的に手当てするというようになりましたね。
丙:株式については,例えば会社が倒産したケースなど,譲渡する機会がないまま無価値になったというときに,その損失について経費として認める必要があるのではないかという議論があり,結果的には,特定管理口座を開設している場合は損失を認めるということになりました。
甲:はい。租税特別措置法37条の11の2が改正されています。上場株式等や特定公社債の発行会社が解散・清算したこと,再生計画認可の決定を受け全株式を消滅させたことなどにより.株式,公社債の価値が無価値化した場合は,その損失を上場株式等の損失とみなして損益通算,のみならず繰越控除の対象とするように拡充されました。
丙:債券のデフォルト損失はどうなるんだという議論もありました。具体的にはリーマン債の問題でした。つまり,リーマン債を買って無価値化したものが損失とならないのはおかしいではないかというわけです。
甲:株式を発行しているような会社はたいてい社債も発行しているわけですから,株式はよくて社債はだめというのではバランスがとれていない,という議論ですね。
丙:そういう話の延長線上に今回の改正があります。単に損益通算の範囲を拡大したというだけでなく,「投資の損失」というものの範囲を少し広く認めるようにしたという点で.金融所得一体課税を進化させる意義があるのではないかと思っています。
甲:乙さんはいかがですか。
乙:私も同様に感じます。デフォルト損失について,従来は考慮されなかったものが対象になったということは,非常に価値があることだと思っております。
甲:逆に何か問題点が出てくるようなことはないですか。デフォルトといっても単純に清算してゼロになりましたというものではない場合もあるわけですよね。
乙:個別の企業の話になりますけれども,エルピーダメモリのCB(転換社債及び転換社債型新株予約権付社債)について.更生計画の中ではこれが指名債権に変わるということになり,有価証券でなくなってしまうのではないかという詰もあります。こういったときの税法上の扱いがどうなるのか,これが平成28年以降の一体課税によってどうなるのかと,このような問題は今後も出てくると思いますし,基本的には損益通算の対象としていただくべきなのかなと思います。
甲:そうですね。理屈から言えば何らかの対処が必要だと思います。そのあたりは今後の課題ということでしょうか。また,デフォルト損失について,細かい話ですけれども,特定中小会社に出資した株式の価値がなくなったことによる損失も今回拡充されて,上場株式等・特定公社債等のグループの損失と損益通算,繰越控除ができることになりました。
5、上場株式一非上場株式間の損益通算不可
甲:今回の改正で,上場株式等のグループと上場株式等以外のグループが完全に分離されたことから.この2つのグループ間での通算ができなくなりました。この影響はどうなのでしょうか。
乙:例えば創業して間もない企業,ベンチャー企業などに投資すると,これは得てして損失になることが多いと思います。そうした損失と上場株式の利益を通算できないというのは影響が大きいのではないでしょうか。ただ,非上場の株式については証券会社の取扱いの外ですから,実態としてどういう影響があるのかはわかりません。
甲:私が聞いている話では,例えばリーマン・ショックのときに上場株式についてはたいてい損失が出たわけですが,この譲渡損失を被った方が中堅企業のオーナーだったりすると,中堅企業の株式.つまり非上場株式を保有しています。このオーナーが創業者であれば,最初に1株500円ぐらいで取得しているものが,1万数千円になっていますから,売却すれば譲渡益が出るわけです。これらの株式を自分の持株会社や後継者に移転して,譲渡所得課税によって損益通算するということもあったようです。こういうことはできなくなりますね。
6、同族会社発行社債(私募債)関係
甲:今回の改正により一般公社債のうち同族会社が発行している私募債について,償還金や利子をその同族会社の役員等が受けた場合は総合課税になります。この改正の意図というのは,どういうものなのか,具体的には影響が出てくるのでしょうか。
丙:今回の改正の大きな思想は,個人投資家にとって使いやすく・効率的な金融税制を構築するということですが,租税回避の問題があるような部分についてはしっかり手当てするということでしょう。
甲;確かに貯蓄商品・金融商品といわれるものとそうでないものを分けていますね。前者はできるだけ損益通算してリスクがとれるようにする。それとは関係ないものについては別の取扱いをするということでしようね。
同族会社のオーナーが会社に金を貸して普通に利息を受ければ雑所得で総合課税されるところ,私募債を発行して自らが利子を重け取る形にすれば,実質上同じものが利子所得になって20%源泉分離で済んでしまう,もっと極端になると給与所得を利子所得に変えてしまう。所得の分類・種類を変換してしまう道具として使われないように,手当てしているのですね。ただし,27年までに発行されたものについて駆込みができてしまうのは問題点ですね。
次回以降、太字部分あたりの内容を詳しく見ていきたいと思います。