WEB戦略構築(49) 「文脈(ストーリー)で事業を創る」 ~ 金もない人脈もない商品もスキルも頭脳もそこそこで、運もそれほどない弱小事業が、マーケットで一定のシェアを確保し維持し続け、30年生き残る為の残された唯一の可能性が、文脈(ストーリー)で事業を創り訴求することであり、そのことにリアルに真剣に粘り強く挑戦し続けてみること
・自社アイデンティ「うちの提供すること」~だれの何をどう解決するのか、理念・ミッション・提供価値、で、商品は結局何?、具体的に?
・ブランディング「認知のされ方」~「何」と思われてるのか?、「何」と思わせたいのか、「どう」思われたいのか、文脈(ストーリー)で勝負
・戦略策定「うちの型」「で、どこへ向かうの?」~自社を文脈(ストーリー)で語れるか?、座標軸の相対位置づけ、で、どうなればいい
・UXを高める「あ、あった!」「これこれ!」~インサイト(心理、体感)ターゲティング、本当に必要なことを見つけて一切の不便をなくす
御社 : 「あなたにとって本当に必要なものはこれで、他のものよりもこれが一番最適ですよ」 ⇒ 対象者 : 「あっ本当だ。あった、あった」
となればいい。端的にいえばそれだけの事。しかし、こんなシンプルなメッセージが実際には届かない。「届かない」の意味は、物理的にも、理解的にも、心理的にも届かない。障害物が沢山ある。沢山あってしかも、とんでもなく複雑だ。「物理的な障害物」、「理解的な障害物」、「心理的な障害物」をそれぞれ列挙してみる。
まず、
「物理的な障害物」
(言う側)
・多くの人が同時に同じことを言おうとする。
・他の人よりも大きな声で言おうとする。
・その人はどこにいるかわからない。
・どうやって聞こうとしているかわからない。
・いつ聞こうとするのかわからない。
・音声的には目の前の人しか伝わらない。
・沢山の人に伝える必要がある。
・大きな声で沢山の人に伝えるだけの金がない。
・情報を目の前に置くしかない。
(聞く側)
・そもそも聞こうとしてない。
・物理接触はない。
・文字は読まない。
・探すところを間違えている。
・探し方がわからない。
「理解的な障害物」
(言う側)
・言ってるつもりだが、実際的には言ってるうちに入らない。
・伝えてるつもりが、伝えてる内容が間違っている。
・間違っていること自体がわからない。
・「伝わる」がどういうことかが、そもそもわからない。
・目的に対して、手段と方法が間違っている。
・手段も方法も知ってることしか知らない。
・言葉も概念も無知。
・あまり深く考えてない。
・考え方がわからない。
・それらに対する必要性の認識に至れない。
(聞く側)
・理解できる表現しか受け入れない。
・瞬解できる表現しか残らない。
・意味の理解力は足らない。
・勝手に解釈をゆがめる。
・見えても見えない。
「心理的な障害物」
(言う側)
・言うこと、書くこと、伝えることの学習や努力を面倒臭がる。
・頑張って伝えようとする方向性を間違える。
・結局自分が何をやっているか理解できていない。
・視野狭窄でしかない。
・客観とか俯瞰という言葉は知っているが、どういうことかわかってない。
・全体の状況、構造の理解はとても無理だ。
・伝わらない原因にたどり着けない。
(聞く側)
・信用しない。
・勝手に勘違いする。
・何が必要か勘違いしている。
・だまされて、損させられた記憶から離れられない。
・基準がゆがんでいる。
・価値の理解が出来ない。
・絶対価値は持っていない。
・大きな声に引っ張られる。
・長いものに巻かれる。
・世間体に合わせないことは怖い。
・自分で決められない。
・根気よく探さない。
挙げていくときりがないので、抽象度の高い、本質的な表現までにとどめた。なにせこれらすべての障害物をクリア出来ないと、伝わらない。これらの障害物を一発解消する方法は、大手広告代理店に依頼し、ゴールデンタイムに視聴率の高い番組でTVCMを流すことだ。これが出来るのは5%未満の大手企業だけ。95%以上はそれ以外の方法で頑張るしかない。そういった意味では、うちのような弱小小規模事業者にも、実は全然食い込むチャンスはある。多くの事業者にとっては、障害物の内容、意味さえ分からず、ましてやそれに対する対策も方法も、手探りでの挑戦に過ぎない。障害物の内容や意味を丹念に理解し、それに対する対策を一つ一つ手を打っていき、根気よく粘り強く取り組んだ事業者が、マーケットで一定のシェアを確保することが出来る。5%の大手の残した、2割程度のシェアの取り合いにはなるが。
弱小事業でも、シェアを取れるかどうかの要因を考えてみると、実際には、「運」が80%、「商材・サービスの恵まれ度」で15%、残り5%程度が「マーケティング努力」、ということになろうか。キース会で勉強していることは、この5%に対する努力になる。ただただ言葉と文字で、この5%残されたチャンスにチャレンジするということ。今のご自身の事業は、それぞれ○○屋さんでらっしゃるつもりでも、その実、中身はあってない様な事業に過ぎない。事業を言葉と文字で創り直していくということ。文脈(ストーリー)の内容がうちの事業だ。文脈屋さんだという意識転換をしたい。でないと、取り組んでいくボリューム的に、とてもしんどい。本業は文脈を創ること。
15%の「商材・サービスの恵まれ度」は、ご縁で「売れる」物品に恵まれているとか、技術サービスなら、もともと器用とか、センスがあるとか、そのことが好きだとか、努力以前に恵まれた要素が大きいはずで、それらのことを指す。まあそれも結局「運」だが。「開運」の方法は、論理体系立てた根拠は難しいので、基本扱わない。ただしキース会では、そのメカニズムに多少の造詣はあるので、コーチングでその啓発にも取り組もうとはする。現時点で運に恵まれていると定義する方々は、そこそこ上のステージで順調に軌道に乗っていらっしゃるだろうから、キース会には来ないだろうし、こんなしち面倒臭い勉強に取り組む必要性が、今の時点ではないであろう人たち、としているので、会員の皆様は、現時点では、さほどの運には恵まれていらっしゃらない方々ということで、話を進めさせていただく。
「運」は流動的だ。固定したものでも、変えられないものでもない。出来る範囲で意図的、計画的に引き寄せて、コントロールしたい。「流れ」は来る瞬間がある。問題は、そこでものに出来る準備が完了しているかどうかだ。その準備というのが、5%の「文脈での事業構築」になる。言葉と文字を極めることに一心不乱になる。そのエネルギーが「運の流れ」に影響を及ぼす。そのことを「しきい値を超える」とか、「ティッピングポイント」とかいう。
では、その「文脈を創る」、「文脈で事業を創る」とはどういうことか。何段階かで説明しないと難しいが、まず端的に言うと、「体験価値を提供する事業に変身する」ということ。従来の事業を定義すると、「物理的な物品を売る」か、「すでに世間認知の確立した定型のサービスを提供する」か、に集約される。例えば、自動車産業なら車を売っている。ヘアサロンならカット、カラー、パーマなど、髪の毛そのものに物理的な加工を加えている。じゃあ、客は本当にそのことに金を払っているのだろうか?という例のあの話。
車を買う目的は、コレクションとして所有そのものが目的の人はさておいて、9割以上の人にとっては、移動かもしくは移送の手段として買うはずだ。本当の目的は、「そこへ行ければいい」のであり、「何かを運べればいい」。という点に、真摯に向き合おうとすることを言う。その動きが例えば、「シェアリング」という新たなビジネスモデルの台頭と確立だ。Time24はコインパーキングだったはずだ。しかしいつの頃からかそのスペースの一画にレンタカーが置いてあり、事前登録をして専用カードを作っておけば、いつでも好きな時に好きなだけ利用できる。すぐ近くにだけでも5、6箇所ある。都市部で車を所有すると下手すると、駐車場代の方が家賃よりも高い。車を所有する必要性なんて言うのは、本当はないのだ。シェアリングで言えば、民泊はじめ、ぼちぼち色々なところで身近に確立し始めている。モノが飽和してしまった今日、「所有」⇒「共用(シェア)」へという流れ自体も、もはや不可逆だろう。まだ実際には世の中そんなに変わってないように見えるが、そのモノを提供する製造メーカー最大手ほどシェアリング対応に、もう手を打っいる。変わるときは結構、急にあれあれという感じで変わっていくのだろう。
ヘアサロンへ行く目的も同様の考え方が成り立つ。ヘアサロンへ行く目的は、「なりたい自分に変身する為」であり、「あるべき姿を維持する為」である。切ることも、色を付けることも、うねりをつけることも、その方法手段に過ぎない。決してお金を払う目的ではない。非日常の癒しとか、空間体験そのものとか、スタイリストとの接触とかいうのも、末端の付録以上にはなり得ない。そういう点からすると、本当にほしいものはただ2つだ。「最初の絵合わせ」と「家での再現方法」。カット技術や商材のクオリティはそれを現出させるための業者側の手段であり、都合だ。だから料金が高い、というのはそもそも理屈がおかしい。「なりたい自分」と「あるべき容姿」を確実に当ててくれさえすれば、それでいい。頭形、髪質でそれが無理ならば、その希望の絵の本質を満たした提案をもらいたい。これらのことはまだ表のニーズに過ぎない。さらに言えば、無形サービス業は少し複雑だ。隠れた裏の最大のニーズは、そもそも「なりたい自分」と「あるべき容姿」をどう表現したらいいかがわからない。わかってもらう為に客側が、画像探し、表現探し、モードへの習熟など、どれほどの苦労、努力、心理負担を強いられているのか、業者側で思いをはせた人はいるのだろうか。絵合わせスキル、再現レクチャースキル、そして意向くみ取りスキル、本当に提供すべきはそのことのはずだ。全体オペレーションの中で重要頻度99%は、「最初の絵合わせ」、カウセリングとかコンシェルジュとか呼んでいるサービスの、超絶ハイパフォーマンスでないだろうか。
ヘアサロン業界について蛇足だが少し。業界全体が何年も、カット技術や商材のクオリティ、店舗デザインのみにしか意識が向かなくなってしまったのか、業界がなぜそんなにズレてしまったのかは、業界を真に活性化させようとしたパイオニア、カリスマ方のマーケティング手法に過ぎない。それに便乗してマーケットチャンスを拡大させようとした、補助業者たちの努力だ。以下、ただ乗っかっているに過ぎない。本質がブラインドされてしまい、キャリアの長いプロでさえ気づかずにまかり通ってしまっている。まあだから、それでいいっちゃあ、それでいい。そのずれた過当競争の土俵の上で30年戦い続けられるならば。しかし都度都度店を変えられ、定着させられない。プロ側で気付く人は出てきているし、客側も反応し始め、探し当て始めている。この現象もまだまだ水面下の動きだ。世の中それほど言うほど、そんな流れではないように見えるが、これも結構急にあれあれと白黒、淘汰がついてしまうのではないか、というのが比較的現場に通じ、客観的に観察できる立場の目線での実感だ。
ヘアサロンの話は終わりにして冒頭に戻るが、「文脈で事業を創る」、端的に言うと「体験価値を提供する事業に変身する」というのは、自動車産業なら、「そこへ行ければいい」、「何かを運べればいい」というニーズ、ヘアサロン業界なら、「なりたい自分に変身する為」、「あるべき姿を維持する為」というニーズに対して、「何をどういう形で解決すればいいか」という命題に取り組み、事業化することをいう。例として、Time24のカーシェアリング、ヘアサロンの「最初の絵合わせ」超絶ハイパフォーマンスを挙げたが、まあ例えばこういうこと。いずれのニーズも、至極当たり前のこと過ぎるにもかかわらず、世の中の提供形態の中に埋没してしまっており、表に顕在化していないニーズになってしまっている。こういうのを、改めて言うまでもないが、「潜在ニーズ」という。これらの、客としては腹の中で本当は不満に思っているけれど、言ってみてもしょうがないニーズのことを、「インサイトニーズ」とも呼んで、マーケティング現場では、対策の主流になっている。あらゆる業界が飽和し、煮詰まっている。そんな中で打開策のとっかかりのメインテーマが、この「インサイトニーズの発掘」になっており、そこから逆算して新たな業態、ビジネスモデルを模索している。
Time24なんかは業態がもはや確立しており、何のサービスなのか、客は考える間もなく理解できる。そのサービスを発見した瞬間に、その対象者にとっては、「おお、そんなんあんの。これは便利やわ!」となる。サービス自体が物理的に見えやすいし、まあ言っても、レンタカーサービス自体はもう世の中にすでにある。客として、何なのか考える必要がない。ところが、未だ世の中にないサービス、どれほど便利で画期的であっても、初めて見聞きするサービスなら、理解に時間を要するし、心理的受け入れにしばしの時間を要する。Air b nd bだとかウーバーだとか、フィンテック系、仮想通貨などでは、確立しつつも、いまだ理解も出来なければ、使おうともしない人の方が多い。利用者大半は外国籍の方で、日本人は特に受け入れに時間がかかる。インサイトニーズの業態化は、主流とはいえ、格段のハードルが待ち構えている。しかし、これも日本には特殊なハードルがあるだけで、世界の潮流自体は不可逆だ。日本人が取り組みに様子を見ている間に水面下で、そのシェアはほぼ外国企業に占められてしまうことが危惧されている。消費者側の立場なら、別にそれでもいい。しかし事業者側として見れば、アマゾンを見てわかるように、おっなんか新しいの出てきた、とか言ってる間に、世界中がもはや取り返しのつかないことになってしまった。同じことが、弱小事業者にも迫ってくることは想像に難くない。
小さな事業であるほど、商材・サービスがコモディティ化してしまっている事業であるほど、「インサイトニーズに基づく新業態化の開発」に取り組むことに、選択の余地はないはずだ、ということを前提に論を進めている。前述の話で、どれほど便利で画期的であろうとも、聞きなじみのないサービスには、理解も難く、受け入れも時間がかかる。
ヘアサロンの例で、「最初の絵合わせ」超絶ハイパフォーマンスサービスに、力を入ていかなければならないことに違いはない。当然どこのヘアサロンに聞いても、力を入れてやっていると言う。もちろんそうだろう。しかし、どうやって?とか、その的中率は?とか、お帰りの際の満足率は?とか、リピート率には意識はあるようだが、定着率は?とか、聞いても具体的な回答が返ってくるケースはない。もちろんデータをとる重要性という論点で聞いているのではない。具体的な再現性のある確立されたオペレーションに落とし込めているのか?という話。まずは業態化させるということ自体に、業者側の理解が伴わない。なので当然、そのことが重要頻度99%だとは思っていない。やはり職人なので、技術そのものにしか意識が向かず、どうしてもそちらへ走ってしまう。まあ、業者側の問題意識の話はさておいて、要は、そのことが重要だとはわかっていても、客としてはそのことが100%なんだとは理解できない為、「絵合わせ」、「意向のくみ取り」スキルをわざわざ表に引き出して、強調して、アピールするということをやっていない、ということ。カット屋さんではなく、「絵合わせ屋さん」であり、「意向のくみ取り屋さん」という風に見えなければならないということを、まずは前提としないと、そもそもの主題にも入れない。職人のままでは当然淘汰されてしまうのであって、自己紹介で、本職はカウンセラーであり、マーケターと言えなければ、本題に入れない。補足的に、少し。「絵合わせ」はあくまでも、客の意向をまずは完落ちで当てることを目的とするもので、「似合わせ」は次のステップの提案フェーズでの表現のはずだ。混同しやすいので補足まで。
ということで、「まさしくこんなふうにしてほしかった!を実現!!」、「あなたの意向を徹底的にまずは伺います」、「あなたの理想に極限まで挑戦します」、「頭形、輪郭、身長、髪質、顔立ちに基づく提案と、あなたの理想とのマッチングにお時間を頂戴します」、「短時間での再現法レクチャー付き」、「2週間後と1ヶ月後のスタイリングアドバイスまで、徹底フォロー」、「土日以外ご来店で、服装、アクセサリー、化粧・・・すべてのトータルコーディネートレクチャーサービス」・・・キャッチで言えばこんな感じで、さらにサイト内には、なせそれが可能なのかその根拠が、分かりやすく瞬解できる表現で画像と共に掲載されている。あなたのサイト、ポータル、チラシ、店内・・・あらゆる媒体から受ける印象はただ一つ、そのことをひたすら強調しているばかり。逆に、他の印象は出来る限り排除するぐらい。カットがすごい、カラーがすごい、パーマがすごいなどは、根拠の一つに過ぎないという位置づけ。まずは徹底する。ここから本題にやっと入れるという話。そこまでしたつもりでも、伝わりもしなければ、理解もされず、受け入れ、浸透に時間を要する。さてどうするか、からが上級理解編のスタートになる。
メッセージは日々訴求力上げるべく、考え続け、打ち出し続け、実験し続ける。サイトのデザインも、どこまで質の高い、センスの高いデザイナーを探し続けることが出来るか、あきらめない。当たってくるまで5、6回は作り直すことは、常識と受け入れる。実際のカウンセリングオペレーション精度を高めることは日々研鑽。自分は出来るが、スタッフの底上げをどうするか。実際そこが最難関だが、テキストジャンルが違うので一旦スルー。客の目に触れる、実際の接点をUI(ユーザーインターフェース)というが、これが高まらない以上、伝わることも、理解されることも、浸透することもない。それでまずは第一関門突破。次に、信用できるのか、その根拠探しに入る。サイト上に過不足なく、整然と説明されている必要があり、それがまた文章が長いとアウトで、画像が的確でキャッチーで気分がよくなる華やかさを具備していなければ、プラスの印象でとらえてもらえない。
客になる前の、あなたを探し、あなたを理解し、あなたを受け入れる、そのすべてのプロセス自体が、客にとってはもうすでに「価値体験」になっている、ということを理解する必要がある。客になって実サービスを購買する段階では、実はそれはもう、単なる確認作業に過ぎないのである。厳密に遡ってみると、客が心理的に落ちているその大部分のパーセンテージは、あなたを見つけた、その最初の一瞬なのだ。これら全般の話が、UX(ユーザーエクスペリエンス)の時代の、「UXを高める」という概念理解の話になる。「UXを高め」られなければ、もう本当に、世の中に存在しないに等しくなってしまう。
うちが一定シェアを取れるかどうか、運以外の部分で言えば、マーケティングの段階のメッセージのクオリティや精度が、実はすべてなのである。「待ちの営業」に慣れてしまった方にとっては、これからは本当に結構きつい。WEB上で、客が精査して選ぶ時代だ。スマホの中の小さなかわいいデザインのアプリに、時代錯誤な意識の何もかもが、順に淘汰されていく。えらいことだ。
メッセージの力は文章力、言葉と文字を極めることに立脚する。世の中にまだあまり認知のない、新たな訴求を呼びかけ、そのインサイトニーズを解決すべく提供サービスの内容も変更し、その精度を高めるべく、自社内部、組織にも理解させ、働きかけていかねばならない。この一連のどれが不十分でも成り立たない。理解できるところから、やれるところから部分的に改善し、努力しても、やはり何も変わらない。ゼロか100かだ。全体像から取ってかからなければ、成り立たない。全体像がまずは描けるか?この全体像の絵を描く作業は、経営者の全責任において、自力解決できないと厳しい。この全体像の絵を描くこと、若しくはそのスケッチの前段階の作業として台本を書くこと、このことを「文脈を創る」という。
この台本は主に2種類に分けて考えると取り組みやすい。客側の成長ストーリー、LTVの観点と、自社の成長そのものと。客側は、宣伝広告のキャッチコピーのところを頭として、理想客になるまでをお尻として。自社側は、起業構想、若しくはリノベーションに取り掛かる最初、「うちの客はだれなのか?」「うちは何屋なのか?」を頭として、30年後の出口をお尻として。それぞれが、一貫した一連のストーリーに聞こえないといけない。さらには当然、その2つがリンクして一貫して関連してないといけない。それぞれのつじつまも、2つの連携のつじつまも、ずれていれば、その時点で事業は失敗している。1つ1つの連結につじつまが合い、論理飛躍もなく、頭からお尻まで流れるようスムーズに聞き心地がよくなかったら、どこかの部分、あるいはつなぎ目のどこかの煮詰め方が甘い。ストーリーがつながって流れるように、一気通貫で文脈を通すことが出来るようになりたい。
このストーリーを「戦略」といい、文脈を構築することを「事業構築」、もしくは「再構築、リノベーション」という。最終的にそれを、1行、ワンフレーズにまとめられるか。アマゾンの「購買の意思決定を助ける」とか、スターバックスの「第三の場所」とか、リクルートの「まだここにない出会い」のように、一口で自社が何なのかを語れるようになりたい。これを「社会的ミッション」という。その社会ミッションを果たすために、ぶれない方針を「理念」という。一般的に、理念、ミッション、ビジョンなどの用語の総称を、自社アイデンティティというが、キース会では、この文脈の通ったストーリーそのもの全体を「自社アイデンティティ」と定義している。誰かに聞かせて、「じゃあ○○屋さんだね」、「要は○○なんだ」と思われた、その○○の部分が、多数を占めたイメージの内容が、自社の「ブランド」になる。ブランドの動詞形ブランディングとは、何と思われたいのか、どう思わせたいのか、そのことを能動的に、意図的、計画的に実行していく行為をいう。本来、受け身的に結果こうなった、というものでもない。
用語の整理は多少ついただろうか。ブランディングに取り組みたい、戦略を練りたい、新規事業に取り組みたい、理念やミッションを先に掲げるべきだ・・・色々思うところはあろうが、なかなか前に進むことは少ない。なぜなら、すべてが一気通貫した一連のことであり、どこかの部分に取り組んだとて、つじつまが合わない、ぶれる。文脈の通ったストーリーがないのに、それ以外の部分で納得のいくようなものに落とし込める道理はない。
そこまで、筋の通ったストーリー作りの出来ている会社なんて、実際には世界的な超有名企業か、とんでもなく賢いベンチャーぐらいかもしれない。そんなものはなくても儲けているところは儲けている。ストーリー創りは、必ずしも「金儲け」と直結するような行為とも言えない。日本の企業の9割以上、従来型の企業のほとんどは、もうすでに顕在化し、現出している社会ニーズに合わせ、競合するプレイヤーとの勝ち抜き合戦で成り立ってきた。社会ニーズ自体の創出は常にアメリカからの働きかけで、大手広告代理店が大衆扇動して生み出し、マスメディアという飛び道具で実現する形で生まれてきた。
社会が大きく変わってきたとか、識者はしきりに言うが、何が変わってきたかというと、上記のような社会ニーズ創出の構造自体が変わってきてしまった、という点だ。飛び道具の部分がマスメディアから、スマホ、SNSにとって代わっているということだ。このへんの事情の詳細な内容自体は、テーマが変わってしまうので省略するが、根本的な部分での構造自体が変わりつつあるという状況がある。アメリカ型ITベンチャーの巨人たちがAIを駆使して、何もかもを食い尽くし始めた。従来型大企業でも、GEなどアメリカの大手は、モノから体験価値産業へと業態変化に成功している。体験価値産業というのもまたわかりにくいが、単なるモノやシステムの提供ではなく、その企業にしかできない問題解決や効率改善を、その対象者ごとにオリジナルで提供していくこと。日本では、経営執行にそういう目線で取り組んでいないところから順に、通用しなくなってきている。これからを取っていく企業にはすべて、何を狙うのかの、時系列での緻密なストーリーがある。これからはなくなっていくであろう企業は、今それが要るからそれを提供する、今までそうなのでまだしばらくは今まで通りで、という型から抜け出せていない。
ストーリー創りの意図するところの重点ウェイトは、目先の利益ではなく、持続可能性、サスティナビリティ、生き残りの方にある。用語の意味の補足として、日本で、この持続可能性、サスティナビリティという概念は、企業自身の生き残りという意味でとらえられていない。環境問題と、企業自身の利益活動以外での、ボランティア的な社会貢献活動の方を指している。寝とぼけているにもほどがある。まあ大事なことには違いないが。キース会ではもちろん、ご自身の事業の生き残り、30年持つか、ということを大前提としてすべての話をしている。もうすこし正確に言うと、「家族と従業員の老後生活資金に責任の持てる経営者になれるか」ということに尽きる。先ほど社会的ミッションの話が出たが、キース会の社会的ミッションは、「家族と従業員の老後生活資金に責任の持てる経営者創り」ということになる。それを実現させる方法論としての「30年儲け続ける仕組み創り」であり、その手段が「キースメソッド」になる。30年「儲ける」の方にウエイトがあるのではない、30年~「続ける」の方にウエイトがある。
今儲ける力は当たり前に必要だ。ここはもう持っていることが前提ではある。これがなければ、しくみ創りは始まらない。でもここも弱いのであれば、まずは何はともあれ、このことからだ。で、結局コーチングでは、この部分に終始している方もある。しかし、しくみ創りが出来なければやはり、続けられない、と強い認識が必要だ。頭からお尻までの一貫したストーリー全体を創るというのは、確かにとても難しいと思う。その台本を書くだけでも、自社のストーリーとはいえ、知らないことが多すぎる。ロジカルシンキング的に、解決方法ははっきりしている。知るしかない。学習する、読書する。シンプルだ。時間がかかるのはしょうがない。自己の今日ここまでの学習習慣のつけだ。
知識や概念、情報など、色々なことを知らないことに対しては、知ればいい、しかしもっと根源的な問題として、考え方自体がわからない、という問題がある。どこからどう取ってかかって、どういう順番、流れで進捗させていけばいいのか。こちらは今の時点で分からなければ、正直自己解決はかなり厳しい。なので、この部分の解決として、「キースメソッド」というフレームワークを提供している。キースメソッドはマニュアルではない。自己の事業に応じて、具体化させていくのはあくまでもご自身の作業だ。考え方のとっかかり、順番、流れ、一連の行程のヒントを「フレームワーク」という。
さらにもっと根源的で、半ばどうしようもない問題がさらにある。固執の問題だ。自己の既成概念の範疇からなかなか抜け出られない。そもそも、自身が今まで積み重ねてきた経験、知識、無意識で耳目から入り込んでいるすべての情報をベースに、さらに情報処理をするし、思考の範囲もその中で行い、意思決定もその範囲の善悪基準で行われる。既成概念から飛び出る、とかよく言うが、よく考えれば、これは自己の今日ここまでのすべての人生の、全否定を意味する。そんなこと簡単にできるのか?そもそもがあり得ない話だ。ところが神様はよくしたもので、人間には「気づき」という作用を与えてくれている。この一つの気づきで、それまで詰まっていたすべてのことが、一気に変わる場合も、実際にはある。
そこまで大きな変化にも、正直なかなか恵まれにくいが、日常のささやかな気付きというものはだれしもある。でもそれにも前提条件がある。本人が何か変わろうとしている、このままではまずい、何とかしなければという思いを持っているという状況でなければおこらない。プラス、力みすぎたり、いらいらの感情や逆に強すぎる期待や前向き感など、濃い感情を含んでいても、気づきの解釈がゆがむ。静かに落ち着きのある謙虚さの維持が、最も効果的なのだ。まあこの辺りは、簡単な話のようで実は相当に難しい。ある種の自己啓発トレーニング、修養経験、ささやかな悟りを持っていなければ、体感できないことかもしれない。そのことの直接的なトレーニングには触れない。しかしそのことの意識啓発を、コーチングの時間帯には、実は提供している。洗脳はしていない。悪しからず。
その提供サービスが社会インフラ化しているような有名企業のストーリーは、たいがい面白い。面白いかどうかは主観の問題だが、誰が聞いても納得しやすくわかりやすい。ベンチャーや新ビジネスが世の中に受け入れられ、受けていく要因として言えることがある。そのストーリーがシンプルで、わかりやすく、なぜ受け入れられるのか納得がいきやすい。ニーズに対してシンプルに対応できている。先に見つけて、だれよりも早く形にし、どこよりも便利か安いかを実現している。ニュービジネスがうまくいくかどうかの要件は、まずはこのことにあるとも言える。それぐらいの重要度の高い話で、本来の順番から言えばニュービジネスの企画は、このストーリ創りからはじまらなければならない。創業者の頭の中はおそらく、そこからイメージが始まっている。
「体験価値の提供」として比較的わかりやすく有名な事例でよく出てくるのがアマゾンやスターバックス、リクルートなどだ。アマゾンは「購買の意思決定を助ける」屋さんであり、スターバックスは「第三の場所」屋さんであり、リクルートは「まだここにない出会い」屋さんである。
私たちはモノを買う時、損をしたくない。より安くて、より自分にとっていいモノを選びたい。目の前にすべての選択肢を並べてじっくり吟味し、予算の許す範囲でベストチョイスをしたい。まずすべての選択肢を、並べることはおろか、集めることも出来ないし、探す手間が膨大だ。価格も、同じモノでも業者によってまちまちだ。自分が知らないだけで、その目的に合った、もっと便利なモノがどこかにあるかもしれない。買った後に知ると、とても悔しい。モノを一つ買うということは、とんでもなく手間で骨の折れる重労働だ。
世界中の選択肢を並べて、高いも安いも一目瞭然で、私に合っていそうな他のモノも次々とリコメンド(推薦、推奨)してくれる。アマゾンサイトは「ベストプラクティスへの最速、最短アクセス」を実現してくれて、時間と手間を短縮してくれて、買い物満足度の高い、豊かな人生をサポートしてくれる。良書発掘が不可欠なキース会においても、最良のパートナーである。今日のように世界制覇をするずっと前、まだ古本屋さんだった頃、「アマゾンは神サイトだ。」と吹聴していた。「1円とかでつぶれないのか?」と浅はかに思っていたが、「手間と面倒の退治」という、人間の本質的なインサイトニーズの一丁目一番地を解消し、人類の歴史を変えた。私たちレベルが実地に体感する「体験価値の提供」という観点では、一番わかりやすい例ではないだろうか。
まあ、アマゾンの場合はそれだけにとどまらず、ビジネスの成功モデルのあらゆるパターンを徹底している。後述するリクルートの、「マッチング」機能を果たし、すべての商品と業者が便乗しに来る「プラットフォーム」であり、情報提供においては「フリー」に徹し、情報格差の「アービトラージ」を利用し、あなたの欲しいであろうモノを提示する「AI」が搭載され、物流にイノベーションを起こし、世界最大のサーバーを擁し、AWSでオフィス業務も制し、医療も宇宙も全部アマゾンだ。プラットフォームインターフェイスとAIを柱に、物流で地上戦を、サーバーで空中戦をともに制した。根幹のインフラが押さえられている。地球の首根っこをつままれているみたいだ。どこまで浸食するつもりなのか?ベゾスは、「インターネットでやれることでなければやらない」と言っている。逆を返せば、それ以外は全部やるという宣言にもとれる。結局何もかもだ。現代版の「神」合戦は、「アマゾンAI? or google AI?」 最後の段落は、余談まで。社会勉強として。
人の生活には大きな2つの場所がある。家庭とそして職場だ。人間にスイッチがあるなら、職場がONで、家庭がOFF。心理モードで言えば、職場が戦闘で、家庭がいやし。与えられるものは、職場がストレスで、家庭が幸せの巣。これらのスイッチやモードの、切り換えを行いたい時がある。通常、この2つの大きな場所をつなぐのは通勤電車になる。スイッチを切り換えるとしたら、通勤帰宅時のこの時になる。でもそうなっているだろうか?人の一日で最もストレスのかかる時が、このラッシュアワーのはず。家庭に殺気立ったモードを持ち込みたくもなければ、ビジネスモードには華麗に変身したい。人によっては、家庭は癒しでもなければ、幸せの巣なんてとんでもない。職場と別バージョンのONであり、戦闘であり、ストレスだ、なんて人も多い。いや、そういう人の方が多い。OFFになっていやされる時が、ゴルフや出張先での宿泊以外に、1日の中でほしい。かといって飲みでの発散は、後からの煽りも大きく、散財し、家庭での状況をさらに悪化しかねない。副作用が大きく、部下の立場の時はさらなるストレスだ。それら以外の方法で、毎日のリズムの中で、自分を取り戻す瞬間が欲しい。
シックでモダンな落ち着いた空間に、身を包む深めのソファー。そこで、良質な香りで、高ぶった神経を落ち着かせる。○○ラテ、○○チーノは、それをサポートする1つに過ぎない。1人で静かに思慮を深めたい時がある。その時、マクドナルドには行かない。ドトールでもない。タリーズやベローチェも何か微妙に違う。やはりスターバックスだ。
ビジネス戦士にとって第三の場所であることを、頑なに崩さない。あのラテやチーノが好きだから、家の近くにもあってほしい、というニーズはあるだろう。しかし、第三の場所のあるべき場所はそこではない。あくまで、オフィス街から離れない。住宅地で日中の客層はおそらく主婦だろう。子育てママにとっての第三の場所であってもよさそうなものだ。しかしそのニーズより圧倒的に、ミドル主婦のダべリングに占拠されてしまうだろう。ファミレスの昼下がり状態だ。あの騒音では、第三の場所にはなり得ない。マクドナルドも100円を打ち出して、学校帰りの高校生のたむろ場所に貶められ、自滅した。スタバのターゲティングは、だれに嫌われるかをはっきりさせている。来てもらっては、その存在意義を崩される人たちは、頑なにブロックしている。日本での全席禁煙文化の導入者、先駆けだった。人気やブームに乗じ、コンセプトを崩してまで、売り上げを追いかけるわけでもなく、「コーヒーを売っている」つもりもない。うちの体験価値は何か?うちは何屋かを明確にわかっている。金銭勘定ベースが先に立って、事業を営んでいるわけではなく、まずはストーリーがあって、その文脈に基づいて、サービス形態を具体的な形に落とし込んでいる。という事例の、一番わかりやすいパターンではないだろうか。
週末デートに誘われた、明日重要なアポが決まった。今晩空いているヘアサロンはないだろうか?週末に今から予約の取れるサロンはないだろうか?空いていたとて、失敗は許されない大事な日。その店は上手だろうか?どうやって調べたらいいだろう?片っ端から電話をかける時間もなければ、電話で聞いたとて、そのサロンはいいサロンか、悪いサロンかわからない。うーん困った。ただでさえ色々準備に忙しいさなかに、ヘアサロン探しという余計な手間がふえた。ヘアサロン1つ探すということは、とても深刻でとても難しいことだ。方や、集客に苦戦しているヘアサロンがある。腕には自信がある。しかし立地が悪く、なかなか見つけにくい。独立して開業したばかりで、まだまだ認知をしてもらえない。技術の研鑽は積んだけど、集客のノウハウなんて全然わからない。集客はとても深刻で、とても難しいことだ。
両方のお困りごとに立ち会った私は、なんとかお互いをマッチングさせてあげたいと思った。そしてそんな困った人たちが、両方共にとてもたくさんいる。そうしてペッパービーティーは起ち上がった。ヘアサロン以外の同様のパターンはあちらこちらにもある。すべての産業、業種に存在する。最も大きくわかりやすい、ニーズの代表選手だ。レストランを探したい人、家を探したい人、バイトを探したい人、転職先を探したい人、結婚式場を探したい人・・・と、集客をしたい業者側の人。これらのマッチングポータルサイトは今や、社会インフラとして根付いており、毎日たくさんの「まだここにない出会い」をつないでいる。
このマッチングポータルサイト業は、ニーズが見えやすく、サービス形態もシンプルがゆえ、2番煎じ、3番煎じが雨後の筍のように出てくる。が、リクルートを脅かすようなものは現れない。なぜリクルートだけが強いのか?その秘訣の一端は、社内の文化背景にもある。この会社では定期的に、全社員を対象とした企画コンペを開催している。常に、新しい面白いマッチングサイトのモデル、あるいは、確立したサイトをさらに補強する、新たなユニークな付加サービスを生み出そうとしている。そこで賞を取ると、新たなプロジェクトチームを1つ与えられ、人と予算をつけてもらえる。全社員に常にチャンスがある。常時はエンジニアだったり、営業だったり、管理部門だったりしても、全社員がクリエイターだ。常にその目線で生きている。社内での会話は1種類しかないという、イメージ操作っぽい話がある。その会話は、「で、お前はどうしたいの?」上下だろうが、同輩だろうが、これしか言ってないんだそうだ。クリエイティブな要素を持ち、常に新しい何かを生み出したい願望を持った人しか、そもそも居にくい環境だ。逆に、いずれ将来事業を立ち上げたいと思っているような猛者は、一度リクルードで勉強し、チャレンジしてみたいと思い集まってくる。社内体制としても、事業の立ち上げも、テストマーケも、正式な事業化の判断も、スピーディーなしくみが出来上がっている。面白くても金にならないものはやらない。逆に、金になっても面白くないものは、そもそもクリエイターたちの企画には出てこない。リクルートの本当の強さは、どうも内部リソースとしてのストーリーの部分にこそあるようだ。ストーリーには、対外の部分の話と、対内の部分の話と2つの観点で描いていく旨前述したが、対内の部分としての事例で、「だれを船に乗せるのか」という点で、とても参考になる。
有名でないところのも1つ。
家具屋さんが売れなくなって久しい。老舗家具屋の3代目は、古い体質、古いセンス、古い品揃え、古い商売のやり方、何もかもダメだと思った。家具文化の栄えているヨーロッパの見本市に遊びに行った。伝統ある古風なデザインかと思いきや、とても前衛的な斬新なデザインだった。驚いたのはデザインの話だけではなかった。ヨーロッパ人たちは、家具に対して、というより「リビングルーム」というものに対して、生活の中でのプライオリティ(優先順位、重要度)がとても高い位置づけにあるということだった。日常生活の中で普通に定期的に、リビングの模様替えをし、その都度インテリア家具を買い替えるとのこと。日本では、家具は一生ものか、変えても引っ越しの時ぐらいだ。なのに、車は買い替える。車のように、家具も定期的に買い替える文化に出来ないか?家具はモノではなく、リビングを彩るデザインツールという感覚にチェンジ出来ないか?「リビングを遊ぶ、ヨーロッパ家具文化の導入」が、この家具屋さんのストーリーになる。この家具屋さんはイケアでも大塚家具でも、もちろんない。地元の家具屋さんの話。
ドイツデザインの斬新な家具を数点輸入し、若者向けの1点差し込みパーツとしてまず浸透させようと、一画にそのコーナーを設けた。しかし問題は、若者が老舗家具屋には足を運んでくれないという問題、そして、1点差し込みとはいえ、輸入ものなのでそこそこの価格はするので、そうそう簡単には試さない。ステップを踏む必要があると、その一画のコーナーに導くように、壁面にアート商品を並べてみた。カラフルで前衛的な油絵を、まずは自分たちで描き始めて商品に並べ、そのうち美大生などにも依頼して、絵画商品を準備した。1点1万円前後で、試してみるに「1枚あってもいいよね」と思えるようにした。自由でカラフルなオリジナル1点もの油絵で、1枚飾るだけでリビングの雰囲気が全然変わるということで、評判を獲得した。まずはコーナーまで引き込むことと、油絵で若い人に客になってもらう、という点で1段階突破の成功事例。
本丸とは程遠くても、人間、何か意図した施策が当たれば気がよくなり、意欲もさらに湧いてくる。もっと若い世代に目引きを立て、入店自体の母数をもっともっと増やしたい。店頭入り口、ファザードの部分で何か目引きを立て、家具屋というハードル自体を消せないか?が次の課題となる。どうしたらいい?何かないか?の思考錯誤の末、たどり着いたのがスリッパだった。社運をかけた投資をし、オリジナルデザインのスリッパブランドを思い切って立ち上げ、店頭ファザードの一面に、カラフルにスリッパを飾り立てた。中途半端でなく、徹底的にやったことが功を奏し、若者の来店に大成功を収める。来店母数自体が増えれば、絵画の購入点数も増え、差し込み家具も売れるようになっていった。
リビングを遊んで楽しんでもらう、変化と彩りをもたらしていくのも、段階的に攻めようという作戦になる。斬新な家具の前に斬新カラフルな絵画で慣れてもらい、その入り口としてまずは斬新カラフルなスリッパ、というわけだ。意外と、スリッパなんてなんでも一緒、ではなかったということ。どうせなんか履くなら、彩の映えるものの方がいいに決まっている。しかし、世の中にはそれほどそういうものが一般的ではなかったというわけだ。どうせ安いし、気分でその都度、オリジナルなデザインを楽しみたい、となった。また、贈答用としての地位も築いていく。親しい友人同士でのバースデープレゼント、プレゼントの持ち寄りパーティー、訪問の際の茶菓子替わり、入学祝い、進級祝い、転勤、引っ越し・・・。関係性の距離感的に、どの程度の何を贈ったらいいかが難しい、気を遣わせない軽いプレゼント、そのポジションにスリッパがはまった。カラフルさがインパクトも与える為、プレゼントとしての費用対効果も高い。家具屋としてではなく、スリッパブランドとして、まず確立した。買い替えるという習慣の定着、その為に定期的に来店してもらうというファン化およびブランドロイヤリティ、新規客の入店ハードル下げ、これらの壁も越えた。
これも「スリッパを売ったのではない」と言えるだろう。そしてスリッパだけだった人も、奥の目を引く面白そうな絵画を見ようと奥へ進む。そこまで行くとさらにその奥には斬新な見たこともないヨーロッパインテリア。興味引かされ、見ようと思って目に入れば、それなりに「おおっ!」、「あっ、いい!」と思い、「1つ置いてみたい」となる。独身男女のセンスアピールで、インテリアの差し込み衝動に駆られる、というストーリーだ。独身層の一定ファンを獲得し、学生なら就職時の引っ越しや転勤引っ越しの際に。その都度その都度引っ越しごとに、リビングデザインを買い替える層に育てていった。そして結婚し新居の際には、本来のメイン家具一式を3Dソフトを使い、実際の置いてみたイメージをその場で見せていき、プロデュースサポートし、細部に至るまで全部を取っていく。決済方法も、金利負担のない分割払いの導入、中古家具の買取システム、自社商品なら高めの引き取り、さらにそれを中古家具のネット通販、オークションでさばく、循環のシステム・・・。その都度買い替えて、「リビングを遊ぶ人の培養業」が完成した。
展開として、オリジナルブランドのスリッパをフロント商品として、ファザード一面に飾り、オリジナル油絵、斬新差し込みインテリアという品ぞろえのショップで出店攻勢をかけていく。全国展開し、大都市大型商業施設にも基幹店。さらには、ドイツデザインの差し込み家具ブランドを日本に広めた功績で、そのドイツブランドと専売契約ライセンスをも獲得。中心地に単独ブランド大型店舗出店。ランドマークとして客足は絶えなくなった。年商8,000万の老舗家具屋が17年で80億のブランドになったストーリー。有名企業の遠い話でなく、私たちでも考えられそうなささやかな工夫とチャレンジの積み重ねで、ここまでなるんだという事例として。少しでも我がことに置き換えられますように。