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事業承継スキーム(12) 「一般社団法人」「信託」(4) ~遺留分と議決権について

今回は「信託」の続編として、「遺留分」「議決権」について見ていきたいと思います。この「一般社団法人」「信託」編のトピックスにおいては要は最終的に、「非上場株式の株主オーナー社長が息子へ資産と経営権(議決権)を引き継ぐ為に、自社株の資産管理会社として一般社団法人を立ち上げ、その一般社団法人を受託者として自社株を信託し、最初はオーナー自身を受益者とする自益信託とするが、死後は息子が受益者となる他益信託となるよう指示した遺言代用信託を活用すると、自社株承継上のどんなデメリットを回避でき、どんなメリットがあるのか」を見ていきたい、ということです。

そこにたどり着く為には、納税や株買取などの「資金」の問題と併せて考慮が必要な点として、「遺留分」と「議決権」の問題をどうクリアするのか、があります。今回のスキームは資金面以上に、このあたりの点に対しての確実性と柔軟性が高いということで注目されており、「遺留分」と「議決権」について、改めて見ておきたいと思います。

まずは「遺留分」ですが、残された遺族個別ごとにとっての最低限の遺産の取り分のことです。非常に強い権利で、その個別の遺族にとって法律によって最低限守られる権利です。この場合の「遺族」と言うのは「法定相続人」です。厳密に言うと配偶者、子、父母の3つの立場です。子がいる場合は父母は無しです。強く守られる背景として、遺族の間での遺産の取り分、分割方法に大きく偏りが出た場合、不公平にならないようにということです。

「法定相続分」とは区別が必要です。法定相続分とは特に遺言も無ければ、法定相続人の間でこれぐらいずつで分けてくださいと、喧嘩にならないように法律が定めた分割の一定の割合であって「遺留分」の取り分とは割合が違います。法定相続分には法的拘束力はありません。それどうりでなくてもいいということです。

「遺留分」も絶対にその割合どうりでなければならないわけではないですが、遺留分以下の取り分しか無い遺族が、「少ない!!」と不服を申し立てると遺留分が優先されるということです。事前に全員が了承した上で、任意の分け方をしている分にはなんら問題のないことです。

子が3人いて、長男が大半を受け継ぎ、長女や次男には少なかった時に、長女や次男が「えっ、なんで?」と思ってしまうと、この遺留分の問題が浮上します。通常の感覚で、「争族」問題が発生するというのはなかなかピンと来ませんが、兄弟間でのそれまでの

扱いに、潜在的な不満がある場合や親の面倒をだれが見てきたのかなど、兄弟間での妥当な資産受取割合額が違うと、まさに相続の遺産分割のその場面で不満が表面化し、爆発します。

またその兄弟それぞれに家族があり、背後に嫁があり、子の人数もそれぞれ違うと、兄弟同士の均等よりも、子すなわち被相続人にとっての孫同士での均等を主張し合う様になったりと、こじれるケースは徹底的にこじれます。親族間の絶縁もけっして珍しくはありません(身近に何例も見てきました)。実際争族裁判は年間1万件前後、裁判所へ持ち込まれます。

遺産がキャッシュで分けやすければ、そんなに問題にはなりにくいのでしょう。しかし資産家などその資産が分割できない不動産であるとか、会社のオーナー経営者で資産の大半が会社の株式であるような場合、上記のようなことが伴う潜在リスクを孕んでいるということです。

会社の後継者にその権利を承継させかつ、他の兄弟たちの「遺留分」を侵害しないようにするためにはどうすればいいのか。このことが解決課題になります。

この後継者の権利が「議決権」となります。議決権とは会社の最高意思決定機関である株主総会における、多数決の票のことです。重要な決定事項の際は2/3の票を多数決で獲得しなければ決定できません。

1株が1票です。通常オーナー社長は100%株主でしょうから、多数決もくそもありません。ですので後継者もそのまま100%株主の地位を引き継げば、なんら問題はありません。後継者が全株を引き継ぐことにおける問題点は、相続税、贈与税、もしくは買取資金などの資金面での問題もそうですが、それ以上に上記で見た「遺留分」の問題もあります。

他の兄弟との関係性、資産構成がほぼ株式だ、などの場合は一筋縄ではいきません。後継者が全株を引き継ぎ、他の兄弟には遺産はほぼ何も無い、というようなことになればさすがにだまってはおられないはずです。

資金の問題はまだ解決の方法が無くはないでしょうが、「感情」や「納得」の問題は一旦こじれると、その解決方法には多大なエネルギー、時間、コストが掛かります。資金面以上に解決課題として重視されるゆえんです。

議決権対策の方法としてよく出てくるのが「種類株式」の話です。今回のスキームはこの「種類株式」を活用せず「信託」を活用する方法になるので、基本関係ないのですが、ざっくりとだけ見ておくと、株式には色々な種類の機能をつけて発行できる、ということです。

「機能」と言うのは、主には「議決権」すなわち多数決の票の1票の機能に格差をつけることが出来ます。1票に議決権の機能をつけないものを発行することが出来るということです。その代わりに配当は優先的につけるという約束をしたものです。「配当優先株」とか「無議決権株」とか言います。そのほかにも、たった1票だけでもその票が「NO!」と言えば、否決される鶴の一声的な機能をつけることも出来ます。「拒否権付株」とか「黄金株」とか言います。

後継者以外に一定割合を引き継がせなければいけない様なケースであれば、「無議決権株」を引き継がせたり、先代社長が世代交代して株は引き継いだけれども、後継者ではまだ不安だなどと思い、あまりにもおかしな決定をしそうな時には「黄金株」を1株持っておけば否決できる、などという時です。

これらの機能を活用すれば「議決権」問題を解決できます。しかし実際にはあまり積極的な活用はされていないようです。「黄金株」を発行しているとなると、承継がうまくいっていない、親子関係に問題があるなどと取られかねないとか、無議決権株も同様で問題のある株主がいるのかとか、いらぬ詮索を招きかねない、それらの内容を登記しなければならない、などの事情があるようです。

さらには最終的な株価評価にまだまだ不透明な点が多く、出口構想が立てにくい、ということも、専門家側が積極的に推奨しない理由でもあるようです。

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