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事業承継スキーム(18) 賃貸不動産(5) ~評価減効果・ケース比較(2)

評価減効果・ケース比較(2)

前回から、ケースごとの評価減の効果を見ていますが

土地所有者が賃貸住宅を建築した場合

土地所有者以外が借地権を設定して賃貸住宅を建築した場合  を見ました。今回は残りの

土地所有者が同族法人を設立し、賃貸住宅を建築した場合でかつ、

 ③-1借地権を設定する場合

 ③-2相当の時代を払う場合

 ③-3無償返還届を提出する場合    のそれぞれの各ケースについて。

まず設定条件は➀②同様一律にします。設例として

 自用地(200)評価額 : 2億円       ・自用家屋の評価額 : 1億円

 借地権割合 : 60%            ・借家権割合 : 30%

 借地権設定の権利金 : 12000万円    小規模宅地の特例「貸付事業用宅地等」は満たす

 相続税率 : 50%    として。

計算上わかりやすいように一律、設例での単純設定としますので、相続税額は正しい数字ではなくイメージです。

土地所有者やその親族が役員となる同族法人会社を作って賃貸経営などをしていくパターンの話です。その同族会社が所有者である役員個人からその土地を借り上げる際に、③-1借地権を設定し、会社から個人に権利金を支払うケース、③-2相当の時代を払うケース、③-3無償返還届を提出し、最初に権利金や相当の地代などの金銭のやり取りを行わないケースとの、それぞれの場合に所有者個人の相続税評価額がどうなるのかを見ていくということです。所有者一人だけの会社なら所有個人も法人も同一人物ですが、人格としては別になるので、個人での税解釈と法人での税解釈は当然別です。自分一人の中でこれらのやり取りが行われるということです。

土地所有者が同族法人を設立し、賃貸住宅を建築した場合でかつ、③-1借地権を設定する場合

権利金は借地権60%12000万、これを法人から個人へ。土地は貸宅地として2×(1-60%)8000万の評価額となる。土地の評価額自体は下がりますが、権利金12000万の現金が手元に入るため、資産の合計としては結局2億として変わらず、減税の効果も見られません。

個人名義の家屋があってもこのケースだと目的は賃貸経営ですから、借地権の性質上、通常上地部分の権利とともに家屋の所有も法人が取得することになり、その建物は取り壊して会社が賃貸物件を建てるでしょうから、もしくはその家屋をそのまま賃貸物件として利用するか、いずれにしても個人名義としての建物はなくなることになります。個人では税額に関係なくなります。

-2相当の時代を払う場合

まず「相当の地代」とは、「通常の地代」との対義語になり、通常の地代は上記①の権利金を払った場合の以後の定期的な賃料地代です。土地を上地と底地に分けて考えると、借地権の権利金は上地部分を買い取ったのと同じ意味合いになるので、その後の賃料地代は底地部分に対してということになり、目安として更地取引価格の1%程度。それに対し相当の地代は、権利金の授受がないため、上地と底地全体に対しての賃料地代を支払っていくということです。上地分も含まれるため、更地取引課価格の6%程度の目安と言われ、要は高く支払うということです。

相当の地代が払われている場合の評価額は、自用地×80%ですので、16000万。権利金の受け取りはなく、家屋建物も上記の①と同じことになるため、資産合計が16000万で4000万の評価減となり、4000万分の相続税50%2000万が減税効果となります。

留意すべき点として、評価の下がった20%分はどこへ行くのかというと、土地を使用している同族法人会社の資産という解釈になり、法人の株価評価の際に資産価額に含まれるということです。法人の株主がやはり同じ自分なら相続税の対象に含まれます。その分は

株価の対策の分野になります。

-3無償返還届を提出する場合

このケースもまずは「無償返還届」とは何か、ですが、法人が賃料地代を個人に払う際、上記②で見た、安く通常の地代を払う場合と高めの相当の地代を払わなければならない場合の違いは、借地権の権利金の授受の有無でした。権利金の授受がなく、安めの通常の地代を払っていると、本来権利金の授受があったものとみなされて、個人は権利金を受け取っていないにもかかわらず、その権利金相当額の課税がかかります。権利金の認定課税と言います。そのトラブルを防ぐために、双方が連名でこの「無償返還届」出しておけば、この権利金の認定課税が行われないということです。

無償返還届ですから、最終的に法人が個人に土地を返す際に、無償で返すということです。借地権の権利金を払っている場合は、返すというより借地権の買取をどうするのかという話になります。借地権のそもそもとして普通借地権で最低30年、一般定期借地権は50年というのが法定の期間です。そんな遠い未来、その時点から見れば大昔のことになるので、権利金の授受はあったのかなかったのか、相当の高い地代を払っていなかったのなら、大前提として権利金の授受はあったとみなされるということです。お互いなしにしようという取り決めをしたならば、その旨の届け出をしておかなければならないということです。

無償返還届は法人と個人との間でのことです。個人間、親子などでの話は「使用貸借」という内容になります。上記の話でいけば親子間の間でも無意識に親の土地の上に子が家を建てたりしても、権利金の授受がうんぬんということになりますが、それに対する権利金の認定課税などというのはあまりに現実的でないということで、また別の解釈になります。

この場合の評価額も②のケース同様、自用地×80%ですので、16000万。権利金の受け取りはなく、家屋建物も上記の①と同じことになるため、資産合計が16000万で4000万の評価減となり、4000万分の相続税50%2000万が減税効果となります。このケースもやはり、評価の下がった20%分が法人の株価に反映するということです。

ほぼ②と似ていますが、②は相当の高い地代を払い続けるということです。地主の一人同族法人だとすれば、権利金の授受も相当の高い地代も、どの程度効果が出るのかは、法人経営での効果、株価対策も含めた範囲になり、個人の相続税の一側面的な検討にはならないということです。さらに言えば、税制基準よりも、今後中長期的にどうすることがベターなのか、子孫、後継者も含めた広い視野での検討が重要なのは言うまでもないことでしょう。

そもそものテーマが賃貸経営なのでその前提での内容ですが、そのメリットだけ着目し、賃貸経営にこだわって建物を建築しても、基本的には通常そのキャッシュは無いでしょうから借入を起こすことになる。その返済負担のことであるとか、部屋の賃付け、空室リスクの点であるとか、リスクは多々あります。

もっと根源的な相続全体の、最も深刻な課題として「争族」問題。特にほぼ不動産の資産家地主さんで、現金や生命保険など分けられる資産が少ない場合、一つの土地、建物をどう分けるのか、共有名義で引き継ぐのか。賃貸管理の負担応分は?遠くに暮らしていたら?言い分が食い違って来たら?・・・税制メリットでの検討基準はその次のことになるはずです。

時間的に余裕のある段階で、被相続人、相続人が問題意識を共有し、席に着く。そこへもっていくために、誰が何をどう働きかけるのか?経営者としての難問ビジネス課題とて及びもしない、超難問課題です。

 

出口構想は30年前から絵を描いておく、勢いで。

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