経営学の先端トピックス~最も根源的な経営知見(4) 成功しやすいビジネスモデルの本質は何か 4条件と戦略との相関
1、ビジネスモデルとは?
2、優れたビジネスモデルの4条件
3、ビジネスモデルと戦略の相関
1、ビジネスモデルとは?
そもそもビジネスモデルとは何?という問いに対して、これという確立した定義が存在するわけではなく、それぞれの論、文脈の中での用い方、解釈のされ方によるという。その中でも、ビジネスモデル研究の第一人者は、ラファエル・アミットとクリストフ・ゾットという人だという。この方たちの定義では、「事業機会を活かすことを通じて、価値を創造するためにデザインされた諸処の取引群についての内容、構造、ガバナンスの総体である」と。まあ、定義というものはかくも抽象度の高い、普遍的な表現が常だ。語り尽くそうと思うときりがなく、膨大な文字数になる概念単語の類を、かくもコンパクトに過不足なくバチっと表現を決めてくることは、もはや芸術の領域だ。定義をバチっと決められるかどうかが、コピーセンスを含めて、ガチ賢かどうかのバロメーターにさえ思う。ビジネスモデルの定義をキース会では、さらにコンパクトに「しくみ」と言っている。しかしイコールと言うより、ビジネスモデルを含めたもう少し広い意味になるが。
先の定義におけるポイントは5つ。
1、価値の創造をする為に
2、社内外で「だれ」と取引するか
3、それらを構造的に結び付け
4、その取引主体を、統治機構を定め
5、それら取引群全体のデザイン
をビジネスモデルという、ということ。
2、優れたビジネスモデルの4条件
先のお二人の論文で、価値創造するためのビジネスモデルデザインの条件として4つ規定している。
1、「効率性」・・・従来よりコストを抑えられる。お金も時間も手間暇も。
2、「補充性」・・・シナジー効果を生む。相乗効果のこと。複数の取引主体を結び付けることで、単体では生まれない効果を生み出す。
3、「囲い込み」・・・ネットワーク効果を生む。流出しにくくし、逆に結びつきにより呼び込む効果を生む。
4、「新奇性」・・・イノベーティブなモデルであること。技術革新のニュアンスのイノベーションではない。取引主体間の関係性や構造自体に変革を起こすこと。ソーシャル的なクラウドワークス、クラウドファンディング、ブロックチェーンによるP2P取引など。
これら4つをすべて完備するのは、実際問題として難しいと。その上で、じゃあ、どの条件が特に重要か、ということを導くための実証研究もされている。目的としては、「企業価値を高める」ことに対してという前提条件の上で。その検証結果は・・・
結果1、「効率性」は企業価値が高いこともあるが、そうでないこともある。
結果2、「補充性」と「囲い込み」は、企業価値とは有意な関係性は見られない。
結果3、「新奇性」が高いと、一貫して企業価値は高い。
結果4、しかし、「新奇性」と「効率性」の両方が高いと、むしろ企業価値が低下する。
とのこと。とても興味深い。まあ、この立証研究の時期、対象がSNS企業、フィンテック企業、アプリ型プラットフォーマーの出現の時期と重なればこその結果であるとも見えなくもない。
が、それでも、「ビジネスのあり方そのものとして、どうあればいいのか」という、極めて根源的悩みに対して、とても示唆的な研究結果に思う。「まさしくこういうことが、まずは知りたかったんですよー」という、多くの経営者、ベンチャー起業家たちの声が聞こえてきそうだ。何はともあれ、イノベーティブな「新奇性」は必須だということ。しかし、結果4にあるように、「新奇性」とプラスで「効率性」を求めると、むしろ逆効果なのだとか。一定の認知とシェアを獲るまでのプロセスでは、愚直にイノベーティブであれ、と言っている。下手に一丁前に、「効率性」などを追求しようとすると、流入の門戸を制限してしまうことになるのかもしれない。少々のムダや損があるぐらいでも、最初は特に、フリーミアムに徹するぐらいのほうがいいのかもしれない。
アマゾンの書評なんかでも、少数の高評価ばかりよりも、高評価、低評価、悪評価、辛辣評価も含めてトータルでどちらにせよ、大量に評価量自体を獲っている本のほうが気になるし、どっちなん?何がそんなに?と、1回はチェックしておかないと、と思わされる。結果、さらなる流入を呼び込む。良いも悪いも、酸いも甘いも、「量」はそれ自体が、最強の広報、宣伝広告になる。無料で、逆に最も効率のいい宣伝広告だと、「革命のファンファーレ」という芸人本は主張し、多くのスタートアップ、ベンチャー系の支持を獲得している。ビジネスの関門は1にも2にも、「認知獲得」であるということを死ぬほど味わった人たちの実感だろう。大量の酷評は改善につながる。しかし、素晴らしくとも、知られずに消えていく残骸が99%なのが実態だ。
「効率性」および、「補充性」や「囲い込み」はある程度成長した、企業価値の高まり切った段階からの、維持の方法とも見えなくない。
3、ビジネスモデルと戦略の相関
さらにお二人は、このビジネスモデルと戦略との相関についても研究されている。モデルと戦略とのフィット感はどうなのか?について。これもとても興味深い。下手打つと、ボタンを掛け違えるそもそも論の1つだ。その前に改めて確認しておくと、ビジネスモデルは「デザイン」であり(※先の定義を確認)、戦略は、競合との関係性の中でどのポジション、立ち位置を獲るかの「行動パターン」であるということ。ビジネスモデル、戦略とさらっと当たり前のように書いているが、その都度「定義」で確認しておかないと、わかったつもりのわからない単語の代表格なので確認まで。だから定義レベルで認識しておくことが、やはり重要なのだ。
ビジネスモデルの条件のうちの、「新奇性」と「効率性」の2条件と、戦略のほうは、ポーター先生の競争戦略の2大方向性の2つ、「コスト優位戦略」と「プロダクト差別化戦略」の2つ。戦略のほうは2つとも、先の「戦略と市場の競争状況」のところで見た、「SCP戦略」の中のこと。それぞれの相関性、相性の相互作用における検証結果は・・・
結果1、「新奇性」が高ければ、企業価値はやっぱり高い。
結果2、戦略では、「プロダクト差別化戦略」のほうが、「コスト優位戦略」よりも企業価値は高い。しかも、モデルが「新奇性」の際はさらに高まる。
結果3、「コスト優位戦略」は、企業価値との有意な関係性は見られない。
結果4、しかしその際も、モデルが「新奇性」なら、企業価値を押し上げる可能性がある。
ビジネスモデルの条件検証結果を見た後なので、概ね想定通りの結果のような気もするが、「新奇性」を備えたビジネスモデルが、さらに「プロダクト差別化戦略」を採る時、最も企業価値は高くなる。つまり、取引主体の相互関係性にイノベーティブな革新をもたらし、プロダクトにおいても差別化の際立ったわかりやすい商品・サービスを持てば、およそ最強だということ。まあ言われてみればその通りで、なんとなく思っていた通りと言えなくもない。しかしこういう論点掲げ、実際に証明するためにエビデンスを積み上げてくれていることによって、何を意識して目指せばいいのか、その方向性自体への迷いを消してくれる。
採用すべき戦略方向性は、「コスト優位戦略」か「プロダクト差別化戦略」か。安易にわかりやすく、汎化したコモディティ商品・サービスの安売り合戦に入るのか、それとも、生みの苦しみがあり、かつうまく当たるかどうかもわからない、差別化を狙ったオリジナリティを追求するのか、悩ましい。余裕のある時はだれしも、後者だと言う。しかし、思うようにいかない、うまくいかない、苦境に立たされた時、例外なく、やむなく前者に寝返らざるを得ない。いずれにせよ、中長期、俯瞰目線で、トータルの企業価値という点では、どちらを採るべきかは白黒が付いているということ。
こちらの戦略の論点はだれしも意識し、それなりに悩む。しかしそれ以上に、それらの戦略ポジションの採り方を凌駕して上回るように、ビジネスモデルの「新奇性」が、トータルの企業価値の白黒に最も多大な影響を与える。つまり、商品・サービスなどのプロダクトに事業の命運が左右されるよりもはるかに、取引主体、すなわち客と自社の関係性、取引先との関係性、客と客同士の関係性に革新性をもたらし、その業界、業種の取引のあり方自体を変えてしまうビジネスモデルのデザインが、自社が跳ねるかそうじゃないかに、決定的に大きな影響を及ぼすということ。その点に目を向ける経営者、ベンチャー起業家はたしかに少ないと思う。ネット通販、SNS、仮想通貨・・・言われてみれば確かにそうだ。本当に肝心なポイントに気づかせてくれる話に思う。
「いや別にそこまで考えてるわけじゃない」、まあきっとそうだろう。特にスモールビジネス事業者にとっては、終始関係ない話題のようにも聞こえなくもない。関係なく済めば幸いだ。イノベーティブな「新奇性」は、「破壊的イノベーション」でもある。ぼやっとした側が、その影響をもろに受ける。アマゾンによって何軒の本屋がつぶれただろう?まだこれからあらゆる小売業というカテゴリー自体が消滅し、通販というカテゴリーしか残らない。QBハウスによって何軒の散髪屋に影響を与えただろう?ブロックチェーン、フィンテックによって金融に人が不要になる。都市銀行でさえ大量に人員削減し、地銀・信金は統合・縮小、消滅に向かう。お二人の検証結果は、単にビジネスモデルの話だけにはとどまらない。
反対に個人でも、インフルエンサー、ユーチューバー、億りびとなる人たちが実際に成り立っている。これも単なる流行り廃りの話だけでもない。その背景の構造が、SNSによる「取引主体の関係性の構造変化」によるものだからだ。これを背景にさらにいろいろな業態、ビジネスモデルが出現したり消えたりするのだろう。本来、最も悩むべきビジネスアイデアは、商品・サービスではなく、「取引関係性のあり方」の部分、ということになる。ボタンの掛け違えどころか、着る服自体を間違えてるレベルにも感じる。この話は、モノが飽和した現在の資本主義経済から、取引信用をWEB空間での数値化を目指す、価値主義経済への移行の話にも通じる。まあ、やっぱり概ねそうなっていっている。
ただ基本的には、「スマホの普及に伴うWEB空間の発達」を前提としたアプリ開発の領域の話でもある。物理空間における、業界のあり方に革新をもたらすことが可能な領域はあとどこだろう?見つけるしかないし、物理空間だけで成り立つビジネス自体に、じたばたする余地すらないのかもしれないし。アプリ開発との連動は、リアルな検討項目ではあるはずだ。どうやって?問題意識の啓発まで。