事業モデル(再)構築 ・ 顧客育成のしくみ創り(6) 「定着客フェーズ(リテンションモデル別解)」(3) ~ 顧客教育「逃がさない」編・囲い込みの戦略、承諾のトリガー(「影響力の武器」より)
1、顧客教育「逃がさない」編 ~ 維持する為の施策
2、承諾のトリガー(引き金) ~ 「影響力の武器」より
①、返報性 ~ ギブアンドテイク
②、コミットメントと一貫性 ~ 正義のバイアス
③、社会的証明 ~ 同調圧力と模倣
④、好意 ~ 不変の基本
⑤、権威 ~ 関係性
⑥、希少性 ~ 自由の喪失
1、顧客教育「逃がさない」編 ~ 維持する為の施策
理想客候補生の方には、いかに金額を載せて頂けるかが目指すべき方向性になるが、定着レギュラーメンバーの皆様には、細く長くでもいいのでいかに長く、一生涯単位でお付き合い頂けるかを目指したい。その為にはその為の施策を打つ。サンクスメール、DM、会報・・・、一般によくされている施策だが、効果がよくわからない。突っ込んで聞いてみると、「そういうつもりでやるものではないので・・・」とか言うが、そもそも何の為に何をやっているのか、理解もあいまいだ。何かの成功事例でよく語られているものを、何をしていいかよくわからないので、やるに事欠いて、何かしないと不安だから、ただやってるだけ、という実態が多いやに思う。なのでやはり、何の為に何をやるのか、まずきめの細かい戦略設計、構造設計に悩んだ方がましだと思うのだが・・・。しかし、その考え方がわからない、というところで詰まるので、ヒントになる考え方を考察してみたい。
まずは、そもそも何をしたいのか、そのゴールの明確化、言語定義化しないと考えてみようがないはずだ。「ゴールからの逆算、分解」という発想自体がないので、ものを考えるにあたり、脈絡なしに思いついたことばかりやろうとしてしまう。今のテーマでのゴールはというと、定着レギュラーメンバーの方に、「いかに長く一生涯単位で、自社顧客の範囲でいてもらうか」という話。なのだが、言語定義の表現としてはこれでいいのだろうか?という問題意識。またロジカルシンキングの練習問題みたいになるが、上記「」表現だとそこから先、考えてみようがなくならないか?対象がお客様のことでの表現なので、体裁のいい言い回しになるが、だから何なの?というような表現になってしまいがちになりやすい。そうやって思考が曖昧模糊とし、明確な目的と結びついた具体施策まで落とし込み切れなくなる。
この場合の表現を絞ると、「いかに長く客でいてもらうか」を考えるはずだ。じゃあ「長く客でいてもらうか」とはどういうことかを、さらに突っ込んで考える必要がある。喜んで頂く、お客様の立場に立ったアプローチをかけ続ける、きめの細かいサービスを心掛ける、ニーズを把握し続け適切な対応を迅速に図る、常に変化し続ける・・・。こんな発案ばかりがつらつらと続くことにはならないだろうか。となって、曖昧模糊から抜けられない。はっきり申し上げて、地頭が賢くない。どこかで聞いて覚えた、「正解」を出そうとしている。これが詰め込み受験脳という思考パターンだ。サラリーマンでもなく、大企業でもなく、生活と人生の直結した自社のことなので、生死をかけた戦略脳、戦術脳で生々しくリアルに発想し、思考してゆきたい。
しかしこの「長く客でいてもらうか」という表現の範囲だと、どこまでいっても考えるに難しい。なぜこの表現が施策発案の思考上難しいか、それは「いてもらう」という表現の主体が、「客」側だからだ。相手側の主体的行動をこちらがコントロールすることは、どこまでいっても難しい。施策発案の思考上のポイントは、自社主体的表現に変換することになる。その観点で言えば、「いかに長く客でいてもらうか」は、「逃がさない」ことだ。「逃がさない」という表現でやっと、冒頭のタイトルに書いてある、主体的行動表現になる。「逃がさない為にどうやって縛り付け、逃げようとすればいかに罠を仕掛けるか」となる。そこまで言うと、ちょっとやってることが違う方向のような気もするが、ここまで言語化を落とし込み、書いてビジュアル化することによって、がぜんリアルに考えやすくはならないだろうか。一見、非モラル、反社会的な乱暴な表現にも思えるが、実際のビジネス、資本主義の本質はすべてこういうこと。大企業ほど徹底しており、いかに「お客様の為に」というデフォルメの仕方も徹底しているという話。
で、実際のビジネスチックな表現に修正すると、「逃がさない」は「囲い込み」とも言っている。さらに洋風に言えば、ファイアウォール戦略だろうか。「縛り付ける」は「拘束」だし、「罠」は「トラップ」。「囲い込むために拘束し、トラップを掛ける」。サッカーみたいな表現になった。トラップとまでは、現実にそこまではハードルが高いだろうから、「拘束するための方法論を考えていく」となる。
ここから先は、いつものように分解思考で論点を絞り、具体化させていく。拘束する方向性を大きく2つに分ける。「心理的拘束」と「物理的拘束」と。
「心理的拘束」とは、「それがないと不自由だと思わせる」こと。さらにそれを状態としての2つの方向性に分ける。「その人仕様に仕上げる」、その人にとってぴったりと当てはめにかかって、その人オリジナルの仕様に仕上げてしまう。もう一つは、「リスペクトの関係性構築」、その人にとってのカリスマ、師匠、先生の位置を獲得し、キープし続け、示唆、アドバイス、指導を必要不可欠にしてしまう。いずれも、「もうそうじゃないと困る」ようにしてしまうということ。
方や、「物理的拘束」とは、「選択肢を断つ」こと。これもさらに2つの方向性に分ける。1つは、「1回そう決めると、もう変えにくい」、変えようと思うと、すごい手間がかかって面倒にしてしまう。もう1つは、「そうでないと、もうかえって損をする」、一般的なポイントだとか、関連特典だとか、会員ランクだとか、パーセンテージだとか、積み上げてきたものがもったいないという状態。物理的に、「もう面倒、手間、損する」状態を作り込んでいく。ここまでが、こちらの意思で能動的に、客の意向に関係なくそうしてしまう施策群になる。
それぞれの内容的な深堀と、施策の具体的検討は後ほど見ていくとして、しかし、これらのことは手間も時間もコストもかかるし、だれにでも、どのケースにでも施策化出来るかどうかは分からない。これら以外の「次善の策」として、もう少し緩めの、だれでも施策化可能な方法も考えておきたい。「拘束」とまではいかない、「緩い束縛」という感覚のものになる。「それでいいと思わせておく」こと。「それがいいと思わせる」までいかない。「それがいいと思わせる」のは、引き上げ施策や、マーケティング段階でのターゲットへの刺し込みの話。「まあいいか、別にこれで」という感覚をキープする。
これについても施策の方向性を2つ。1つは、「ほどほどに心地いい」状態を維持する。賞賛や世辞、特別扱い、心地いい対応、心地いい見た目、心地いい空間など。もう1つは、「少なくともストレスはない」ように働きかける。これについてはだれしも大丈夫だと思っているが、さにあらずだ。これは結構働きかけない限り、思っている以上にそうなっている。というのは、ストレスとは何ぞや?の解釈の問題になる。放置のつもりはないが特に何も働きかけない、つまり特に何らの刺激を与え続けない、ということ自体が、ストレス負荷をかけることになる。どういうことか?だって、退屈だからだ。飽きる。飽きて退屈なのに、その状態を続けるのは脳科学の観点で、一番耐え難いことになる。逆に露骨なストレスを与える方が刺激的だ。緊張感や負の感情を伴い、交感神経が高ぶり、何らかのホルモンが分泌され、興奮状態にはなる。戦闘意欲や克服意欲を促進もする。話の流れとして施策的に、何らかの露骨なストレスを与えるということでは、もちろんない。そういう方法もあるが、場面と趣旨が違う。「少なくともストレスはない」ように働きかけるということは、シンプルに「好意を持ってもらう」ということ。互いに人情を通わせること。普通に一番基本的な、当たり前の話だ。わざわざ文字数を割くことではない、と思うべからずだ。では、好意を持ってもらうとは?人情を通じ合わせるとは?意図的に施策化しないと、単純にすべて、相性の問題なってしまう。であれば、アウトオブコントロールだ。この辺りの話も、多少理屈として科学的に理解できていることが重要だという立場をとる。また後ほど。
一度整理する。
これらを見ていく前に、これらに適用される原理原則の部分を体系立ててみておきたい。何の原理原則かというと、心理的に与える影響力についての古典的な理論、書物がある。「影響力の武器」という本だ。古くから世界中でのベストセラーであり、ドラッカー本や7つの習慣ぐらい有名で、マーケティングに携わる人は、一度は読んだことはあるものになる。今日確立されているマーケティングの手法の多くは、これらの原理原則が当てはめられているものが多い。これから顧客教育の施策を考えていくにあたり、これらの原理原則を理解していると考えやすいし、これらの原理原則をどう当てはめていくかという、思考の方向性が創れる。顧客教育の場面だけでなく、というよりむしろ、もっと手前のマーケティング施策のところで導入するべきことであり、これらの原理原則を知った上で、マーケティング施策の戦略設計、構造設計、コンテンツ作成を手掛けることが多い。今頃触れるのは遅いぐらいだが、でもまあ読んだことはなくとも、断片的な話は聞いたことがあるか、知っているような内容ばかりでもある。体系立てて頭に整理されていることが、思考スキルの実践上、重要だとの前提で、軽くまとめてみる。
2、承諾のトリガー(引き金) ~ 「影響力の武器」より
・動物には固定的な行動パターンがある。それはほぼ自動反応することが多い。その自動反応を引き起こすのは必ず、そこに何らかのトリガー(引き金)が存在する。
・「ので」実験 ある実験結果の話。コピー機に並んでいる人に、先にコビーを取らせてもらうには、どういう言い方をすればよいかという実験。3つの言い方で結果を比べた。1、「すみません、5枚だけなんですけど、急いでいるので、先にコピーを取らせて頂けませんか」と頼むと94%。2、「すみません、5枚だけなんですけど、先にコピーを取らせて頂けませんか」と頼むと60%。3、「すみません、5枚だけなんですけど、コピーを取らなければならないので、先にコピーを取らせて頂けませんか」と頼むと93%。1は「急いでいる」ので仕方ないという心理になって承諾したと解釈しがち。では、3の場合は?「コピーを取らなければならない」と言われても、こっちだってそうなはずだ。しかし、結果は変わらなかった。1、3と2の違いは何か?「ので」。
・人が承諾するのは「理由の正当性」ではない。人が承諾するにも、自動反応を引き起こすトリガーが存在する。承諾のトリガーは、「~ので、(依頼内容)」だという実験結果。
・その他、承諾の自動反応を引き起こしやすいトリガーが、大きく6分類されている。
①、返報性 ②、コミットメント、一貫性 ③、社会的証明 ④、好意 ⑤、権威 ⑥、希少性
①、返報性 ~ ギブアンドテイク
1-1 人から何かを享けたら、「お返しをしなければならない義務感」を負う。望みもしないものを与えられてもこのルールに縛られがちになり、受けた以上のお返しを、結果的にさせられる羽目になりがち。
1-2 「拒否したら譲歩」法 最初に与えて、その見返りを高めに求めてあえて拒否させ、その「お返しをしなければならない義務感」の負い目を負わせることにより譲歩させ、その代わりの代替案を受け入れさせる。
②、コミットメントと一貫性 ~ 正義のバイアス
2-1 人は、自分の言葉、信念、態度、行為を一貫したものにしたい。なぜなら、社会的評価への承認欲求が働くことと、一貫することにより、意思決定の際の葛藤を回避し、「いつも同じ」で済む。一貫させるトリガーは、「ブレてる」ことを意識させること。
2-2 ブレずに一貫させるための一貫圧力の鍵は、「コミットメント」させること。コミットメントとは、自らで、立場や考え、意見を明確にさせること。その人に、大きな方向性自体のベクトルの枠をはめるには、最初に、「~ということでよろしいですね?」、「ええ」と言わせること。以降は、その人の思考はそのことに立脚していくことになる。
③、社会的証明 ~ 同調圧力と模倣
3-1 人の意思決定に占める多くのことは、「他の人はどうだろう?」、「周りの状況はどう?」という、模倣と同調圧力。どう振舞うことが正しいのか?トリガーは、「みんなそうしてますよ」。
3-2 この模倣と同調圧力がよく効く状況は2つ。1つは、「不確かさ」。その人がそのことに明確な解を持たない時、どうしたらいいかわからない時。
3-3 もう1つは、「類似性」。自分の状況に一致、もしくは似ている時、その先例にとりあえず倣おうとする。
④、好意 ~ 不変の基本
4-1 好意を感じる人にはYESと言いがちになるという、最も基本の最もわかりやすい話。好意を持ちやすい要件を5項目。
4-2 「身体的魅力」 見た目がいい。人は見た目が9割とか。メラビアンの法則 コミュニケーション上、要因別の影響を与える大きさの研究。言語情報7%、聴覚情報38%、視覚情報55%。「7-38-55の法則」とも言う。見た目の良さは、その他の要因のすべてを凌駕する。まずは絶対的な第1要因。
4-3 「類似性」 自分との類似。見た目、同環境、同業、同郷、・・・。「よく似てますね」、「私と一緒ですね」などと言われると、無意識に仲間意識を持たされる。
4-4 「賞賛、世辞」 言われると、わかってても悪い気はしない。無意識に「返報性の義務」も負わされる。何か応えねば、と。
4-5 「接触頻度」 会う回数、接触している時間数。接触頻度は高いだけで、好意を超えた情が生じる。見た目がよくなくとも、似ていない、同類項がなくとも、相性があまりよくなくても、接触頻度はそれらを凌駕する。回数を重ねられるなら、時間数を稼げるなら、これが最も固い。
4-6 「連合連帯、仲間意識」 仲間だと思わせる。類似性、共通項を強調する。利害得失が同じだと思わせる。これも接触頻度を重ねれば、おのずと連帯意識も作りやすい。
⑤、権威 ~ 関係性
5-1 権威者には素直に従いがちになる。権威者には力があり、知識があり、正当性があると思い込まされている。それだけに、インチキ権威者や権威者の不正には厳しくなる。中間はなく、詐欺だ、いかがわしいと攻撃的に懐疑的になるか、はたまた盲従するか。攻撃性は裏切りへの反動。それぐらい人は、権威に弱く、服従してしまうというDNAを持つ。
5-2 しかし、その服従へのトリガーは悲しくなるほど単純だ。見た目の部分で、「服装」、「装飾品」。ブランド、貴金属、腕時計、車、家・・・虚飾する付随物品。 5-3 そして「肩書」。人が本当に獲得しようと欲するものはただ1つ。社会的に信憑性のある、対象者に対して影響力のある、「実績」という意味も含めた「肩書」。
5-4 それらを総合する意味合いで、もっとシンプルに「メディアへの露出度」。テレビ、新聞、雑誌などのマス。今どきは、ネット、SNS。それぐらい人は、メディアに盲従している。
⑥、希少性 ~ 自由の喪失
6-1 「希少性の原理」とは、人は機会を失う、あるいは失いかけると、その機会の価値がより高いものになる。
6-2 なぜそうなるのか?理由は2つ。1つは、「質に対する判定」。手に入りにくいものは皆が欲しがるものだから、良いものに違いない、と無意識に思う。
6-3 もう1つは、「自由の喪失」。そもそもなぜそれを欲するのか?欲求を満たす、何かを解消する、何かを達成する・・・いずれも根底にあることは、「不自由からの解放」。その機会を得られないことは、「自由を喪失」する。心理的な反動として、「自由を喪失」することへの抵抗、渇望がその機会の価値を高めていく。
6-4 何らかの「不自由からの解放」につながるのか、そう感じるかどうかは情報のコントロールによっても価値評価は変化する。よって、情報自体の希少性、アクセス制限、なのにあなただけへの特別情報、他の人は知らない、となると、人はその機会を失いたくなくなる。
6-5 希少性の原理が当てはまりやすい状況も2つ。1つは、希少なものがさらに新たに希少になる時、なった時。だんだん減っていく、より評価が高まっていく。それをリアルタイムに追わされる時。
6-6 もう1つは、その機会の獲得に、他との競争を強いられる時。バーゲン、数量限定など。
・現代の情報過多の中にあり、人の意思決定はより複雑化させられている。それに立ち向かい、克服しようとする人はわずかな人と、それを仕掛けている側だけ。ほとんどの人の意思決定は、複雑化に対する抵抗を放棄し、シンプルを追い求め、簡単に決めたいという心理誘導され、逆に意思決定の心理メカニズムは単純化させられている。すなわち、トリガー効果はより高まり、自動反応の傾向は高まるばかり。スイッチが「カチッ」と入ると、自動的に「サーッ」と回り始めるのと同じ。「パブロフの犬」化させられている。承諾のトリガーは、「カチッ、サー」の原理とも言う。